市場は間違いなく伸びる、まずは世に出すことが重要

神澤 公氏
神澤 公氏
ローム
研究開発本部 副本部長

高江 慎一氏
高江 慎一氏
厚生労働省
医療機器審査管理室 室長補佐

八山 幸司氏
八山 幸司氏
内閣官房
医療イノベーション推進室 企画官

中野氏 今後の市場規模について、どのように見ていますか。実際、医療分野が新たな事業として成立するかどうか判断しかねている企業は少なくありません。

八山氏 この分野は間違いなく伸びると、我々は官の立場から旗を振って宣言しています。根拠がないわけではありません。例えば、これから日本だけではな く、世界的に高齢化が進んでいきます。一方で医療技術もどんどん進歩する。すると、高齢化の進展により、これまで多くなかった病気が増える半面、今まで治 せなかった病気が治せるようになります。つまり、従来にない市場が膨らんでいくわけです。

 もっとも、治せなかった病気が治せるようになれば、それだけ医療費が増えていきます。放っておくと、どんどんかさみますから、どうやって抑えるのかを考 える必要があります。そこでは、医療費を将来への投資とみなす、いわゆる医療経済的な考え方をどこまで取り込めるかがポイントになります。医療費はある程 度増えるけれども、今お金を掛けたことで病気を重篤化させず、将来回収できれば良いという考え方です。こうした方向に沿った取り組みも、今後は必要になっ てくるでしょう。

高江氏 日本は高齢化社会だ、保険料をどうするんだ、全然足りないじゃないか、…という話になっているわけですが、実は、諸外国が日本の医療の動向に大き な関心を寄せています。医療機器にしても、介護システムにしても、日本は実験場なのです。既に外資系企業は、日本でうまくいけば、20~30年後に中国に持っていこうという取り組みを始めています。我々規制当局側も、このような動きを理解した上で、適切な規制を設けることが求められていると思います。

神澤氏 我々も、医療分野は確実に伸びると見ています。人口構成から考えても、世の中の動きを見ても、必ず伸びていくでしょう。ですから今、我々は参入の努力をしているところです。

 20世紀に生まれた半導体の技術は、いろいろな産業に変革をもたらしました。例えば、今や自動車の中には、マイコンが何十個も入っている状況です。我々 が自動車分野に参入した当時、(自動車メーカーから)要求された信頼性保証に対しては、気の遠くなる思いだったのを覚えています。それが、今では普通にク リアしています。

 医療の分野に関しても、参入に当っての戸惑いはいろいろあります。しかし、そこに市場があるならば、必ずや克服できるでしょう。医療の分野でも、産業のコメとして半導体が使われるようになると見ています。

村垣氏 我々のラボには最近、「こんなシーズがあるんだけど、医療に使えませんか」という持ち掛けが数多くあります。そこで思うのは、先にマーケット・サイズを考えてはダメだということです。

 ピンポイントでもいいから、この技術はこの治療や診断に欠かせないというものであれば、世に出た時に誰かが拾ってくれるんですよ。市場性がなくても、プ ロフェッショナルが使えると判断するものであれば、誰かが広めてくれますし、それを見た他の分野の先生たちが、「俺の分野にも使えるんじゃないか」という 形で広まっていく可能性もあります。

 例えば、筑波大学が開発したロボット・スーツがあります。あれも結局、世に出たわけです。すると、ある病院のリハビリの先生が興味を持ち、何年間も動け なかった患者に利用して、動けるようになったと。世に出していなければ、こうした広がりは起こらなかったはずです。ですから、ぜひピンポイントでもいいの で自社の技術を何らかの形で医療に応用してもらいたいと考えています。

本記事は、2011年5月26日と6月9日に本誌とデジタルヘルスOnlineが開催したセミナー「次世代医療機器サミット2011」におけるパネル討論の内容を基に、再構成・編集したものである。

中野 壮陛氏
医療機器センター
医療機器産業研究所 主任研究員
1996年に東京電機大学 理工学部を卒業後、医療機器センターに勤務。薬事事業部や研究開発部を経て、2010年から現職。2005年に芝浦工業大学大学院 工学マネジメント研究科を修了、2006年に東京女子医科大学 バイオメディカル・カリキュラムを修了、2008年に芝浦工業大学大学院 工学研究科博士(後期)課程を修了。東京慈恵会医科大学 ME研究室訪問研究員なども務める。
村垣 善浩氏
東京女子医科大学
先端生命医科学研究所 教授
1986年に神戸大学 医学部を卒業後、東京女子医科大学 脳神経センター 脳神経外科 研修医、同 助手を経て、1992年から米ペンシルバニア大学 病理学教室に留学。2006年10月に東京女子医科大学大学院 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野/脳神経外科(兼任) 講師、2009年6月に同 准教授、2011年4月から現職。
岩崎 清隆氏
早稲田大学高等研究所
准教授
2002年に早稲田大学 理工学部機械工学科助手、同大学院 生命理工学専攻助手(兼任)、2004年に同大学 先端科学 健康医療融合研究機構生命医療工学インスティテュート 講師などを経て、2006年に同助教授。2007年から現職。2010年からは東京女子医科大学・早稲田大学大学院共同先端生命医科学専攻 准教授なども兼任。2004~2007年には、ハーバードメディカルスクール ブリガム&ウーマンズホスピタル 組織工学・再生医学研究所 研究員。
神澤 公氏
ローム
研究開発本部 副本部長
1982年にローム入社後、半導体デバイスの微細加工技術の研究開発に携わる。1999年に半導体研究開発本部 副部長、2008年から現職。
高江 慎一氏
厚生労働省 医療機器審査管理室 室長補佐
1994年に厚生省に入省。経済開発協力機構勤務などを経て、2010年7月から現職。2011年1月からは内閣官房 医療イノベーション推進室にも在籍。
八山 幸司氏
内閣官房
医療イノベーション推進室 企画官
1992年に通商産業省に入省。1997年7月に在インドネシア日本国大使館 二等書記官、2001年2月に中小企業庁 技術課 課長補佐、2002年8月に経済産業省 通商政策局地域協力課 課長補佐などを経て、2008年7月に同省 製造産業局化学兵器・麻薬原料等規制対策室 室長。同年8月に厚生労働省 改革推進室 企画官、2009年9月に経済産業省 大臣官房 企画官(バイオ新規事業担当)などを経て、2011年1月から現職。