電子技術やICTを活用した次世代の医療機器について、新たな有望市場と期待する向きは多い。本パネル討論では、次世代医療機器の開発に関わる障 壁を整理し、新市場創出に向けたカギや課題を“産官学医”のパネリストが議論する。進行は、医療機器センターの中野氏。パネリストには東京女子医科大学の 村垣氏、早稲田大学の岩崎氏、ロームの神澤氏、厚生労働省の高江氏、内閣官房の八山氏を迎えた(小谷 卓也=日経エレクトロニクス)。

パネル討論の様子
(写真:皆木優子、以下同)

中野氏 まずは、「次世代医療機器」について、それぞれどのようなイメージを持っているのかを順に聞かせてください。

村垣氏 診断と治療の一体化です。診断して、その場で治療するという姿が理想でしょう。私は脳外科医ですが、例えば、ガンマナイフやサイバーナイフと いった機器は、一つの新しい形だと思います。患部の位置などを正確に把握するセンシング技術と治療技術の組み合わせが、ますます進んでいくと考えていま す。

ガンマナイフ=放射線(ガンマ線)を病巣に集中的に照射して治療する、いわゆる定位的放射線治療装置の一つ。頭部をフレームに固定して、頭蓋内の病巣を治療する。

サイバーナイフ=ガンマナイフと同様、定位的放射線治療装置の一つ。X線を用いる点や、X線を発生する箇所が動き回るため頭部の固定が不要である点などが、ガンマナイフとは異なる。

 もう一つ、今は人(医師)が(医療)機器を使っているわけですが、将来は機器が人を使うような方向に進むはずです。例えば、機器がある程度のところまで治療した後に、「ここを刺しなさい」と人に言うのです。人はそれに従い、ちょっと刺すだけ。そんなイメージです。

岩崎氏 人間の自己治癒能力を使って、あるところまで(病状などを)戻すことが、今後はますます大事になっていくでしょう。そのために必要になるのが、どのタイミングで治療すれば一番良い結果が得られ、より長く活力を持って生きられるのかを示してくれる診断機器です。

診断機器も、単に診断するだけでは膨大なデータの蓄積に過ぎません。診断機器に、いつ治療すべきかというタイミングを提示するソリューションを組み合わせることが、非常に重要になると思います。

神澤氏 日常生活の中で健康情報を取得し、病院に行く前、大きな問題になる前にアラートを立てることが大切です。そのために、健康関連の機能を備えた一般 家庭用電化製品やモバイル機器などで健康データが24時間、リアルタイムに集積される。そうしたシステムに、私は次世代医療機器のイメージを持っています。

高江氏 規制部局(厚生労働省)にいる私の立場からすると、評価の仕方がまだ定まっていないような機器が次世代医療機器なのだと思います。どのような評価をすれば良いのか、開発者も審査側も分からないというものです。

 例えば、クラウドコンピューティングやICTを活用した医療システム。売り方や値付けの仕方など、従来の医療機器とはビジネスモデルが変わってくるで しょう。ビジネスモデルが変わると、薬事法の評価の仕方も異なってくるはずです。どこに力点が置かれ、何が物事の本質なのかが変わってきますから。

八山氏 私が在籍する医療イノベーション推進室が力を入れようとしている分野の一つに、個別化医療があります。これから個人のゲノム情報が容易に安価に読 み取れる時代になります。膨大な情報を、いかに医療や予防医療に生かしていくのかが重要です。そのための病院や健康サービスが、今後はいろいろと提案され るでしょう。これらを実現するのが次世代医療機器だと思っています。