八山 幸司氏
八山 幸司氏
内閣官房 医療イノベーション推進室 企画官
(写真:皆木 優子)

政府は今、医療・健康・介護の産業化「ライフイノベーション」に力を入れ始めた。今後の日本の成長を牽引する産業と明確に位置付け、さまざまな施 策を打っていく考えである。こうした国の取り組みの“司令塔”となるのが、内閣官房に設置された「医療イノベーション推進室」である。同室 企画官の八山氏が、医療イノベーションの具体像を示す。(小谷 卓也=日経エレクトロニクス)

 私が所属する医療イノベーション推進室は、医療のイノベーションに向けた国の司令塔となるべく、2011年1月に内閣官房に設置された。メンバーを、政府だけでなく、産業界やアカデミックの分野からも集めて組織している。

 本稿では、医療イノベーション推進室の取り組みに加え、今後の医療産業が目指すべき方向性などについて示していく。

医療・健康・介護を産業に

 政府は今、「ライフイノベーション」に力を入れている。すなわち、医療・健康・介護を、日本の大きな産業にしようとするものである。政府が2010年6月に策定した「新成長戦略」の柱の一つとの位置付けだ。

 ライフイノベーションに焦点を当てている背景には、社会的な側面と経済・産業的な側面の二つがある(図1)。

 図1 ライフイノベーションの必要性
図1 ライフイノベーションの必要性
医療・健康・介護の産業化「ライフイノベーション」が必要になる背景を示した。(図:内閣官房の資料を基に本誌が作成)

 まず、社会的な背景として重要な点は、高齢化社会の進展である。高齢化社会に向け、生活インフラとして医療・健康・介護を充実させることが命題になって いる。iPS細胞といったバイオ関連の技術が進歩していることも見逃せない。こうした技術を国民の健康長寿にきちんと結び付けるためにも、医療・健康・介 護の産業化は不可欠である。

  一方、経済・産業的な背景としては、まず、新しい市場や新たな雇用を生みだす成長産業を育てる必要があることが挙げられる。さらに、日本の輸出産業をこ れまで支えてきた自動車産業や電機産業の市場が成熟化しつつある今、新たな輸出産業の柱を創造しなければならない。そして、高齢化社会によって労働人口が 減っていく中で、新しい産業の成長モデルを作ることが不可欠である。