制度改善が課題

 次世代医療には課題もある(図8)。例えば、優れた技術が登場したときに、それを企業がどんどん活用できるような法制度の改善が求められる。

図8 次世代医療の今後の課題
図8 次世代医療の今後の課題
大きく四つの課題がある。(図:趙氏の資料を基に本誌が作成)

 典型的な事例として、韓国内でいまだに話題になるのが、LG社が開発した、携帯電話機を使って血糖値を測れるシステムである。血液を1滴付けたセンサを 携帯電話機に差し込むと、画面に血糖値が表示され、データが病院に送信される仕組みである。同社が2004年に開発し、実際に販売を始めた。

 ところが政府は、「これは携帯電話機ではなく医療機器に当たるので、(携帯電話の)代理店で売ってはならない」と指摘した。結局、このシステムは日の目を見ないまま市場から消えていった。政府は当時から、医療産業をもっと活性化させようと口では言っていたが、実際に企業のために制度を改善することは積極 的に実行しなかった。

 もう一つの事例を紹介する。韓国では2010年、医療法が改定されて遠隔診療が可能になった。ただし、医師がまったくいない島など、遠隔診療を受けられ る人は厳しく制限されている。このため、改定は意味がないという反発がいまだにある。しかも、医薬品を搬送してはならないという法律がいまだに存在するため、遠隔診療を受けたとしても、結局、患者は薬をもらうために病院に行かなければならないという課題がある。

病院を巻き込んだ開発が必要

 今後、次世代医療の市場を大きくしていくためには、企業と病院、政府が一緒になって取り組んでいく必要がある。

 韓国ではこれまで、次世代医療産業というと、熱心なのはもっぱらIT関連企業だった。IT関連企業の既存事業が頭打ちで、新たな産業として医療に目を向けたという流れである。このため、開発や実証実験に医療関係者は携わらなかった。

 結局、新たなサービスを開発しても、病院に実際に導入しようとすると、うまくいかなかった。医療の現場というものを、理解していなかったからである。実証実験だけで終わってしまった事例は数多くあった。

 こうした過去の失敗を踏まえ、ここにきて改善の兆しも見えてきている。Samsung社などが次世代医療に注力すると宣言し、韓国内での興味が同分野に集まっている今、2011年は少しずつ結果を出していくべき年になりそうだ。

本記事は、2011年5月26日と6月9日に本誌とデジタルヘルスOnlineが開催したセミナー「次世代医療機器サミット2011」において、趙氏が講演した内容を基に、加 筆・編集したものである。