趙 章恩氏
趙 章恩氏
ITジャーナリスト
(写真:皆木 優子)

Samsung Electronics社は、2020年に向けた注力分野の一つに次世代医療(医療機器、バイオ製薬)を掲げている。2020年までに、同分野に合計3兆 3000億ウォンを投資する計画だ。さらに、LG Electronics社も同分野に注力すると宣言した。本稿では両社の取り組みに加え、韓国における次世代医療の動向などについて、ITジャーナリスト の趙氏が報告する。(小谷 卓也=日経エレクトロニクス)

韓国全体に波及

 Samsung社などの大企業が次世代医療の分野に積極的であることは、同分野に対する韓国全体の機運にも波及している。同社の動きが活発になると、すそ野(産業)もより広がる可能性があるからだ。そして、政府が同社を支援していることもあり、次世代医療の分野に対して韓国では大きな期待が集まり始めて いる。

 Samsung経済研究所は、韓国がこれからグローバル競争力を持てる領域として、次の分野を挙げている。デジタル医療機器、ヘルス家電、幹細胞治療、臨床試験、医療観光である。

 このうち医療観光では今、「どの国よりも優れた整形手術を安く提供します」、「日本の3割ぐらいの料金で入院もできて、さまざまな手術が受けられます」 など、安さを武器に積極的に売り込んでいる。臨床試験の場合も例えば、「日本の半額以下のコストで同じような実験ができます」とアピールする。

 一方、デジタル医療機器とヘルス家電の分野は、現時点では決して韓国が強いわけではない。同領域を今後、Samsungブランドなどで攻め、競争力を高 めようとしている。実際、Samsung社が本格的に医療機器に乗りだすと宣言したことで、政府は韓国の医療機器産業が大きく成長するとの見通しを発表し た。2015年には医療機器産業で世界10位になることを目標に据えた。

 特に、医療機器の輸出額が増加することへの期待が大きい。韓国では従来、輸出してきた医療機器といえば極めて単純なものばかりで、X線CT装置やMRI といった高付加価値型の機器はほとんど輸入に頼っている。この結果、医療機器の貿易赤字が膨らんでしまった。状況の改善に向けて、政府はSamsung社 の医療機器への取り組みを積極的に後押しする構えだ。