位置情報から忙しさを推定

 ②の病院前医療連携は、MEDICAのID番号を活用して救急患者や医療リソースの情報をリアルタイムに共有することで、搬送先の選定を最適化しようという取り組みである。これは、経済産業省と連携して実施している事業である。

 救急医療の場合には、患者の病態に見合った専門医がいる医療機関へ迅速かつ適切に搬送する必要がある。そのためには、病院の状況を的確に現場に伝えるこ と、そして患者の状況を正確に病院に伝えることが不可欠だ(図7)

図6 GEMITSの構築ステップ
図7 救急現場の現状イメージ
緊急時でも刻々と変化する情報が見えないまま、搬送先を選定する必要がある。(図:小倉氏の資料を基に本誌が作成)

 救急車がいわば「イージス艦」となって、これらの情報を集約しようというものである。

 このうち病院の状況とは、医師の忙しさ、つまり患者に対応できるかどうかを意味する。そこで、位置情報を利用して医師の忙しさを判別する仕組みを開発し ている。医師が病院内のどこにいるのかが分かれば、忙しさを推定できるからだ。医師の位置を把握するために、医師にはアクティブタブを首から下げてもら う。現段階では、医師の居場所についてはほぼ100%、忙しさについては95%程度の精度で把握できている。

「誰でもMY患者」に

 ③の病院間情報連携は、端的に言えば、掛かり付けではない病院に行った際も、患者のこれまでの情報を活用できるという仕組みである。これは、 MEDICAのID番号を医療連携のシステムにひも付けることで実現する。政府で「どこでもMY病院」「シームレスな地域医療連携」という構想があるが、 それらを先行して事業化しようという取り組みだ。総務省と連携して進めている。

 既に我々は、岐阜県内において幾つかの仕組みを実現している。例えば、患者の画像情報を含む医療情報を、岐阜県内の主要な医療機関の大多数で共有しながら討論できるようになっている。さらに、ドクターヘリ内にも医療情報を共有するための端末を設置している。

 前述の、どこでもMY病院という言葉は、我々医師の側から見ると、「誰でもMY患者」とも言い換えられる。“いちげんさん”の患者は、やはり何となく様 子をうかがいながら診療する。しかし、患者の履歴が分かれば、いちげんさんであっても「MY患者」になるわけだ。どこの病院に行っても途切れのない医療を 受けられる必要性は、ますます高まってきている。病院間で連携しなければ、今の時代が求めている医療水準には達しない。それに対する答えを出そうというプ ロジェクトである。

 同じことが、医療と介護の情報連携にも言える。要介護者の支援には、実は医療情報と介護情報の両方が必要になるが、その二つが今は寸断されている。この 状況を改善しようというのが、④の緊急介護支援である。医療情報と介護情報をMEDICAのID番号で連携して共有しようとしている。

 今後は、救急医療のみならず、医療の全体最適化を支援するためにICTを活用していくことが、ますます重要になっていくだろう。

本記事は、2011年5月26日と6月9日に本誌とデジタルヘルスOnlineが開催したセミナー「次世代医療機器サミット2011」において、小倉氏が講演した内容を基に、加筆・編集したものである。