闘っている相手は“時間”

 GEMITSは、ICTを活用することで、救急医療における全体最適化を狙ったシステムである。“right patient to the right hospital”。つまり、救急患者が病態に見合った適切な病院に運ばれ、最適な医療を受けられる仕組みの実現を目指している。これが実現すれば、 “in the right time”というように、最短時間での治療に結び付く。

 救急医療の現場で闘っている相手は、“時間”である。外科や内科といった一般診療科は、ほぼ100%に近い確信が得られるまで検査を繰り返すことが許さ れている。これに対して、救急医療は一定時間内に知り得た知見を基に類推し、たとえ不十分であっても決断して、治療を開始しなければならない。

 しかし、救急医療の現場では、患者の情報について多くを知ることはできない。病院側としても、判断に必要な患者の情報が少なく、事前の準備が整いにく い。逆に救急隊からすれば、病院の状況が今どうなっているのかが分からない。このため、受け入れる病院を選定して、搬送が完了するまでに長い時間がかかっ てしまう。加えて、患者の病態が急に変化したり、重症であったりすることが多い中で、煩雑な作業を強いられているのが実態だ。

  こうした状況を改善するためには、限られた時間内での医師の決断を支援するような仕組みが必要になる。医師の作業の手順を明確にして、業務を効率化することが求められる(図2)。ICTの活用によりそれを実現しようというのが、GEMITSの考え方である。

図2 救急医療における診療プロセス
救急医療の流れを示した。一般診療とは異なり、「時間」との闘いになる。(図:小倉氏の資料を基に本誌が作成)
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