掃除機や扇風機、ラジオといった製品分野は、かつてはコモディティー化の最たるものだった。ところが、こうした分野で「飛び抜けた魅力」と「従来の数倍という価格」でヒットし、分野全体の平均単価を押し上げた製品群が登場してきた。その開発の裏側を取材すると、日本のメーカーがかつて持ち、苦境に立たされた今は忘れつつある「製品にかける思い」の重要さを、もう一度思い出させてくれる。3日連続で紹介する「脱安売りの極意」の第3回(最終回)である。

 脱安売り家電はどうすれば開発できるのだろうか。よくある誤りは、高い価格を付けたいがために、高機能化に走ることだ(図3)。どんな新機能を付けても、いずれ他社が追随することになる。結局は価格競争は避けられない。

図3 脱安売りを目的にしてはならない
脱安売りは、あくまで愚直な製品開発の結果でしかない。最初から高く売ることを目的としてユーザーの方を見ようとしなければ、確実に失敗する。
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 逆説的だが、本当に脱安売り家電を開発したければ、「高い価格で売りたい」という気持ちを捨てなければならない。最初にあるべきなのは、「ユーザーにこ れを届けたい」という思いだ。それはときに押し付けですらある。例えば、Tivoli Audio社のラジオには、オーディオ製品によくある音質調整(イコライザー)機能がない。「この音でラジオを聞いてほしい」というHenry Kloss氏の強い気持ちの表れである。

図4 消費者は「高機能」に飽き飽きしている
図4 消費者は「高機能」に飽き飽きしている
日経トレンディネットのアンケートで「製品を『機能が豊富な製品』と『シンプルで使いやすい製品』の二つにあえて分けた場合、どちらに魅力を感じますか」と尋ねた結果のグラフ。

 高価格に見えるのは、あくまで結果でしかない。実際には適正な価格を付けているだけである。バルミューダ 代表取締役社長の寺尾玄氏のように「価格は本当はもっと安くしたかった」という声すらある。初代製品の「GreenFan」および後継製品の GreenFan2は、搭載するDCモータをモータ専業メーカーと共同開発するなど、コストの掛かった製品だ。価格は「原価を基に、商売できるギリギリの 線で決めただけ」(寺尾氏)なのだ。

 高機能化は、もはや消費者も求めてはいない(図4)。先のアンケートで「製品を『機能が豊富な製品』と『シンプルで使いやすい製品』の二つに あえて分けた場合、どちらに魅力を感じますか」と尋ねたところ、3分の2は「シンプルで使いやすい製品」という回答だった。高機能でなくても、その製品に 価値を見いだせば、消費者は購入してくれる。