掃除機や扇風機、ラジオといった製品分野は、かつてはコモディティー化の最たるものだった。ところが、こうした分野で「飛び抜けた魅力」と「従来の数倍という価格」でヒットし、分野全体の平均単価を押し上げた製品群が登場してきた。その開発の裏側を取材すると、日本のメーカーがかつて持ち、苦境に立たされた今は忘れつつある「製品にかける思い」の重要さを、もう一度思い出させてくれる。3日連続で紹介する「脱安売りの極意」の第2回である。

 価格が高いにもかかわらずユーザーに支持されている「脱安売り製品」が増えてきた。こうした製品は、単なる高級家電やデザイン家電とは異なる。重要なのは、「脱安売り」はあくまで結果であり、目的ではないということだ。

 通常製品の数倍に相当する価格でありながら、ユーザーに支持され、新たな市場を作り出す─。「製品に宿る『個人の思い』」で紹介した製品群は、価格競争とは無縁のいわば「脱安売り製品」といえる(図1)。

図1 安売り製品との間に数倍以上の価格差
図1 安売り製品との間に数倍以上の価格差
これだけ価格が違うにもかかわらず、脱安売り製品はユーザーに高く評価され、実際に売れている。

 例えば、日本で一般的なキャニスター型掃除機は安い製品だと1万~2万円で買えるのに対し、英Dyson社のサイクロン掃除機や米iRobot社のロ ボット掃除機「ルンバ」は6万~8万円だ。4~5倍の価格差がある。この差は、扇風機ではもっと広がる。卓上型ではない通常の扇風機でも安いものであれば 2000~3000円だが、バルミューダの「GreenFan2」は3万5000円弱、Dyson社の「エアマルチプライアー」は4万~5万円だ。実に 10倍以上である。米Tivoli Audio社のラジオ「Model One」も、3万~4万円と単機能のラジオとしては相当高価だ。

 これだけの価格差があるにもかかわらず、こうした製品は売れている。ユーザーのどんな問題を解決したいかという開発者の思いが明確だからだ。その思いが形に表れたデザインも、魅力の一つになっている。

 中でも、Dyson社のサイクロン掃除機は人気が高い。Dyson社の日本法人であるダイソンによると、日本の掃除機市場に占めるDyson社の金額 シェアは10~15%だという。また、本誌と日経トレンディネットがWebサイト上で2011年12月下旬に実施した「家電製品の付加価値に関するアン ケート」によると、回答者237人のうち74人(31.2%)が「Dyson社のサイクロン掃除機に興味がある」と回答し、その内の1割強が実際に購入し ていた。

 ルンバも、全世界で大ヒットを記録している。日本では、2011年11月の販売台数が前年同月比2.5倍に及ぶという。GreenFan2やエアマルチプライアーも、昨今の節電ブームの追い風を受け、生産が追いつかないほどの人気だ。

 一方、Tivoli Audio社のラジオは、海外では売れているものの、日本ではラジオ放送を聞く習慣自体がほぼ廃れたため、国内での販売台数はそれほど多くはない。しか し、購入したユーザーの音質に対する評価は高い。主力製品のModel Oneが搭載しているのはモノラル・スピーカーなのにもかかわらず、音楽プレーヤーを接続して外部スピーカーとして使っているユーザーがいるほどだ。

 もっとも、こうした製品の魅力がすぐに消費者に伝わるわけではない。例えば、Dyson社のサイクロン掃除機が持つ「吸引力が変わらない」という特徴が 日本で認知されるまでには「5年では済まなかった。7年は掛かった」(ダイソン PR統括マネージャーの神山典子氏)。ルンバも、2004年に日本でセールス・オンデマンドが販売を開始した当初は「誰も見たことがないタイプの製品だっ たため、どんなものなのかを認知してもらうのが大変だった」(セールス・オンデマンド 取締役の徳丸順一氏)という。