最少の部品種類で多様な製品を開発する手法として提唱されたモジュラーデザイン(MD)。設計パラメータをモジュール化した後で部品仕様をモジュール化するので、設計パラメータと部品仕様の関係を「見える化」することが不可欠となる。そのための手法が「設計手順書」である。

 設計手順書の効用は、設計のモジュールの実現にとどまらず、新人の即戦力化、技術伝承、技術力強化、製品開発期間の短縮、設計の自動化と多岐にわたる。だが、日本では設計手順書を組織的に整備・活用している企業は少ない。日本のメーカーが再びグローバル競争の勝者に名乗り出るために、MDの提唱者である日野三十四氏が設計手順書の概要を解説する。

日野三十四(ひの・さとし)
モノづくり経営研究所イマジン 所長
マツダに30年以上勤務し、技術情報管理や技術標準化を推進した後に、2000年に経営コンサルタントとして独立。韓国の世界的な電機メーカーを皮切りに、日本の最大手の重工業メーカー、電機メーカー、産業機械メーカー、電力システムメーカーなどに対し、モジュラーデザイン(MD)のコンサルティングを行ってきた。2004年に広島大学大学院教授に就任し、産学連携活動を通じてMDを普及。

2008年に同大学を退職し、経営コンサルティング業を再開。日本アイ・ビー・エムなどのコンサルティング各社の顧問を歴任した。2011年6月、MDをさらに普及させるべく、コンサルティング会社を中心とした「日本モジュラーデザイン研究会」を設立。主な著作に『トヨタ経営システムの研究 永続的成長の原理』(2002年にダイヤモンド社から出版、韓国/台湾/米国/タイ/中国/ブラジルで翻訳出版し、2003年に日本ナレッジ・マネジメント学会の研究奨励賞、2007年には米Shingo Prizeの研究賞を受賞)、『実践 モジュラーデザイン 改訂版 工場空洞化時代に勝ち進むために』(2011年に日経BP社から出版、改訂前の版が韓国で翻訳出版、2012年に日本生産管理学会の研究賞を受賞)。他論文多数。
コスト競争力の高い新興国のメーカーが品質でも猛追する中、日本の製造業には新たな設計論が不可欠です。それこそが、Q(品質)、C(コスト)、D(納期)、E(環境)の全てを高い次元で実現する「モジュラーデザイン」です。

これまで、Q/C/D/Eのどれかだけにテーマを絞った理論や方法論は多数ありましたが、それらをどう融合させるのかということに関しては、設計・開発の現場や技術者個人が持つノウハウに頼るほかありませんでした。本書には、モジュラーデザインの考え方を通じて、QCDEのレベルを総合的に引き上げる実践法が記されています。さらに、改訂版ではモジュラーデザインを使いこなしている先進企業の最新の動向も盛り込みました。

第1部では、「モジュール」「製品アーキテクチャ」「擦り合わせ」といった、よく聞くけれど厳密な意味はきちんと定義しないで使っていることが多い言葉を再定義。設計・開発の在るべき姿を明らかにしていきます。第2部では、筆者が名だたる企業でモジュラーデザインを指導した際の経験と実例を基に、現場で使える方法論を解説します。改訂版では、近年主流のメカ・エレキ・ソフト融合システムに関する記述を充実させました。第3部では、モジュラーデザイン導入後にそれを維持・改善していくために必要となる活動、モジュラーデザインそのものの将来展望を紹介します。