設計意図の伝達と図面指示

 本来の設計意図は、生産する製品の「利用目的」や「持たせるべき機能」「仕上がり具合」を示すものであるはずである。それを具体的数値に変換したものが公差であり表面粗さであるわけだが、この変換で定量的な管理目標値が示される一方、本来の設計意図は見えなくなっている。もちろん、公差などが設計意図を正しく反映しているなら問題はないのだが、実際には多くの製造現場で、指示通りでは成り立たない公差や表面粗さを、設備条件や工具の調整、あるいはいわゆるカンコツ作業などの「擦り合わせ」によって成り立たせているのが現実である。これをかんがみれば、擦り合わせの行われにくい海外拠点で作製した金型や部品が日本国内で生産したものと同じ精度や品質にはならないのも当然だろう。

 そこで筆者らは、本当の意味の設計意図をいかに後工程につないでいくかを考えるべきである、と常に主張している。解決法には、以下が考えられる。

①設計意図情報の完成度を上げて、擦り合わせをなくす
 これには主に2つの観点がある。
ア)工程能力を考慮して公差を見直す
イ)公差の積み上げ間違いをなくす
 どちらの場合においても、正しい公差を定義でき、設計意図として伝達できれば、「指示通りのもの=良品」となるはずである。擦り合わせが減る分、コストダウンも可能となる。見直し方法としては、モンテカルロ法による公差解析のような品質工学のアプローチが挙げられる。

②意図の伝達方法を根本的に見直す
 もう1つの解決法は、設計意図として各部位の持つ目的を、より端的に伝えるようにし、それを3次元モデルの豊富な情報を駆使して製造条件と結び付けていくやり方だ。筆者らが勧めているのは、この方法である。
 設計意図は、例えば穴であれば、同じ形状でも「ガイドポスト取り付け穴」「ねじ取り付け穴」といった「各部位が持つべき機能」としての情報で表現する。こういった情報の方が、本来要求される精度などの情報が直感的に製造現場に伝わる。成り立たない公差を無理に入れて生産現場を混乱させるよりも、むしろこの方が合理的であることも多い。とりわけ、経験の浅い若手設計者や海外拠点の設計者は、適切な公差は分からずとも部品や部位が果たすべき機能は認識しているもので、部位の機能を直接書き込む方が、より確実に設計意図を伝達できる。