震撼する国内半導体メーカ
1989年10月30日。キルビー275特許は成立した。同11月22日には日本経済新聞が1面トップ記事としてこれを紹介し,その成立は広く世に知れ渡ることとなる(図2)。キルビー275特許の成立は,国内半導体メーカを震撼させた。
「新聞の1面トップ記事。これで私の人生は大きく変わりました。ものすごく忙しくなった。だって,クロスライセンス交渉する相手側の経営陣が記事を読むでしょう。そうすると,それが特許部員に降りてくる。そしてTI社側の窓口である私のところに問い合わせがくるわけです」。
日本TIの鈴木氏はキルビー275特許の成立当時を振り返って,苦笑いする。
国内半導体メーカが特許成立に慌てた理由は,鈴木氏が言うクロスライセンス交渉にある。キルビー275特許が成立した1989年から1992年にかけて,TI社と国内半導体メーカが結んでいた特許の包括的クロスライセンス契約の更新時期が到来しようとしていたのだ。