iOS 6の音楽プレーヤーの画面
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リモートの画面
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iPadの音楽プレーヤーの画面
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 iPhoneやiPad用の新OS「iOS 6」には失望した。理由は、悪名高い地図アプリの出来映えだけではない。これまで米Apple社がこだわってきた利用者の「体験」の端々に、ほころびが見えるからだ。Steve Jobs氏がこの世を去って1年。Apple社の開発姿勢に、かつてなかった揺らぎが生じているのではないか。

 筆者は今回のOSの更新で、心待ちにしていた機能がある。iOS標準の音楽プレーヤー・アプリで、曲数が多いプレイリストを素早くスクロールする機能だ。「あの曲を聞きたい」と思った時に、リストを延々とスクロールせざるを得ないことがしょっちゅうあるからだ。iOS 6にこの機能がないのを知ってがっかりしたのには理由がある。Apple社製の別のアプリには、ずいぶん前からこの機能があるのである。

 iPhoneやiPadをリモコンにして、Mac上で動作するiTunesなどを操作するアプリ「リモート」 。このアプリではプレイリストの曲数が増えると、曲のリストの横に灰色の点が縦一列に並ぶ。この点を上から下になぞれば、あっという間にプレイリストの最初から最後まで移動できる。この便利な機能がなぜiOSの音楽プレーヤーにも採用されないのか。同じ会社のアプリだから、この機能があることを知らないはずはない。リストの表示を損なわずユーザーにうれしい機能が追加されるのに、盛り込まない理由が見つからない。

 そもそも新しい音楽プレーヤー・アプリを立ち上げた瞬間に悪い予感はあった。見栄えがiPadの音楽プレーヤーに似ていたのだ。iPadの音楽プレーヤーは以前のバージョン「iOS5」で大きく変わった。デザインが自分の好みでない上に、ボリュームの操作部分が小さいなど、使いにくくなった気がした。おまけに、せっかくのiPadの大画面を生かす工夫がない。それどころか、以前のバージョンにはあった歌詞を表示する機能が消えてしまった。この点は今回のiOS6でも改善されていない。iPhone版では歌詞の表示はあるものの、操作部分のデザインはこじんまりとして、個人的には前のほうが良かった。

 何を細かいことを言っているのかと思われるかもしれない。だが、操作の細部へのこだわりはApple社の大きな強みだったはずである。そして音楽プレーヤーはApple社大躍進の発端となったiPodを継承する機能なのだ。

 振り返ればiPodがあれほど大ヒットした理由は、使っていてワクワクできる製品だったからだろう。iOS6の音楽プレーヤーからはiPad版であれiPhone版であれ、あのワクワク感がなくなった気がする。その点では前進がないまま、いいのか悪いのか分からないデザイン面の変更ばかりがバージョンアップの主眼になってしまった。

 ユーザーを楽しませる機能が枯渇したわけではないだろう。例えば聴き手の意表をついた音楽を再生する機能はもっと改善できるはずだ。iPodを特別な存在にしていた理由の1つは、楽曲のシャッフル機能の巧みさだった。その進化はここしばらく手つかずのように見える。