現地スタッフが育ったASEAN

 もちろん、現地に数年間滞在するだけの日本人上司と、永住する中国人上司は置かれた立場が異なるため、この違いは割り引いて考える必要がある。それでも、中国事業の拡大を目指す日本企業にとって、部課長クラスの派遣者の評価が低いことは重く受け止めるべきだろう。現場の生産ラインなどを預かると同時 に、後任の育成や、専門技術、ノウハウの移転を重要なミッションとする人材だからだ。調査結果は、語学力不足を超えて、日本人派遣者が抱える多くの課題を 示唆している。

 実は、ASEANで実施した同じ調査の結果は中国以上に厳しい。部課長クラスでは、実に62項目中の44項目で現地人上司の評価が高かった。日本人上司が上回る項目は一つもなかったのである。

 背景にあるのは、ASEANには操業年数の長い日系企業が多いことだ。特に製造業は、1960年代から生産基地を確保するためにASEANに進出を始め ており、1985年のプラザ合意以降の円高が進んだ時代に集中的な投資をした。当時、日本企業は現地の有名大学から優秀な人材を採用しており、これらの人 材が工場長などを担えるまでに育っている。日本人派遣者への評価が厳しいのは、このためだ(図1)。

図1 日本人上司が上回る点はなし
ASEANの日系企業で働く現地人スタッフに部課長クラスの「日本人上司」と「現地人上司」の評価を尋ね、統計的に有意な差が出た項目の例を示した。日本人上 司の評価が高い項目は全くなかった。
[画像のクリックで拡大表示]

 これは、経営層を対象にした同じ項目の調査でも明確に表れた。中国では、「戦略立案」「方針の堅持」「信頼構築」などに関わる項目で日本人の経営層の方が高く評価されている。だが、ASEANでは、これが逆転する。実に13項目で現地人の経営層の評価が上回る結果となった。

 現地法人で優秀な現地スタッフや経営層が育っている状況は、本来は喜ばしいことだ。だが、現地の人材をグローバルに活用する日本企業の取り組みは道半ばである。日本企業では、日本人社員の海外派遣によってグローバル人材の需要を何とか満たしているのが現状だ。現地法人で育成された現地人の人材供給力は高 まりつつあるが、その人材を日本の本社に逆出向させたり、他の国の現地法人に派遣したりする動きは少ない。

 実際、現地法人を訪れると、多くの優秀な人材に出会う。タイにある電機大手の現地法人で会った、40歳代の現地人マネジャーは、日本語が堪能で話ぶりも 論理的、切れ者の印象を受ける女性だった。こうした人材を使いこなせるかが、日本企業が現地で成功するカギとなるのだろう。

意思決定の経験に乏しい

 とはいえ、日本人派遣者のすべてが能力で劣っているわけではない。ある精密機械メーカーの工場長は、ベトナムで立ち上げた工場で好成績を上げ、その実績を見込まれてタイでの新工場の設立に邁進する、実に優秀な人物だった。

 海外で活躍する人材に共通するのは、若いうちからの海外経験が豊富なことだ。今回の調査では、「前任者や同格の現地人マネジャーと比較したときに、どの程度の仕事の成果を上げているか」などの項目について、日本人派遣者に自己評価を聞いた。