大手の企業では,人員削減のために早期退職勧告を行うとき,応募者を集めるために二つのオプションを付けるのが一般的だ。一つは退職金の割り増しであり,これは企業によって内容が異なる。もう一つは,再就職支援サービスのあっせんである。

 再就職支援サービスは,一般に知られている転職支援/人材紹介サービスや転職情報サイトとは少し異なる(表1)。一番の違いは,人員削減を行う企業と契約する点である。人材紹介サービスや転職情報サイトのように,転職先の企業(求人を出す側)から成功報酬や広告料を受け取るものではない。

表1 転職活動に役立つ情報を提供するサービス/Webサイト
基本的に求職者は無料で情報を検索でき,各種サービスを受けられる。
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 従って再就職支援サービスは,基本的には会社都合で辞めるときにしか社員が利用する機会はない(最近では福利厚生サービスで企業と契約している場合もある)。利用者のうち「40歳以上が7割強」(日本DBM 代表取締役社長の石井一成氏)という。

 サービス内容は,どの会社もおおむね同じと考えていい。専門家によるコンサルティング,求人案件の閲覧・検索,研修・セミナーの開催などが主である。「就職予備校+人材紹介と説明している」(パソナキャリア 代表取締役社長の渡辺尚氏)。ベテラン社員で退職を余儀なくされた求職者の「精神的ケアから入るカウンセリング」(日本DBMの石井氏)などもある。

案件を一通り見てみる

 早期退職制度の対象となって転職を考えるとき,再就職支援サービスを使える状況であれば,サービス内容を確認するためにも一度相談に行ってみるのが手っ取り早い。再就職支援サービスは,各社とも非公開の求人案件を持っているとアピールしている。「求人側は,ほかのサービスと違ってお金を払う必要がないから求人を出しやすい」(パソナキャリアの渡辺氏)とする。確かに,公開/非公開を含めて少なくない数の案件を各社が持っている。

 ただし,過度な期待は禁物である。転職が成功するかどうかは,あくまで個人の意識や活動内容によるところが大きい。現在の厳しい求人状況下では,再就職支援サービスでさえ転職者の希 望の求人を持っているとは限らない。

相当な覚悟を持つ

 「エンジニア系企業には現在,勝ち組企業はない。全部が負け組」(メイテックネクスト マネジャーの河辺真典氏)。40歳以上の技術者は,大手メーカーに入ることは難しいと覚悟した方がいい。従って,中堅以下の企業やベンチャーを探すことになるだろう。中小メーカーにとっては,今まで採用できなかった人材を採れるチャンスなので,1社の希望人数は少ないものの募集の数は多い。

 転職のポイントは,「情報収集のアンテナをできるだけ伸ばすことと,希望職種などの条件を変えられるかどうか」(キャリアデザインセンター 電子メディア局 @type編集長の渡邉真啓氏)にある。「希望条件を絶対に譲れない項目だけに絞ること。プライドはあるだけ邪魔」(リクルート リクナビNEXT編集長 Tech総研編集長の黒田真行氏)というように,相当な覚悟と強い気持ちを持って望む必要がある。

35歳以下へのメッセージ——同じ会社にとどまるリスクに気付こう

 「やりたいことをやり尽くしてほしい」。大手のエレクトロニクス企業に勤める若手技術者に,こう伝えたい。結果,社内で衝突しまくって,どうにも道が開けないなら外に出ればいい。価値があることをやり抜こうとした35歳以下の技術者なら,職にあぶれるわけがない。人材紹介会社が放っておかないからだ。「若手だから,まずは(権限のほとんどない) “球拾い”から始めてもらおうか」なんて非合理的な考えを持たない会社だって山ほどある。

 本当に残念なことに,日本の大手のエレクトロニクス企業には,目標にならない先輩社員がいる。大学を出たころの知識水準は高かったのに,自分という商品の魅力に磨きをかける意欲を見失い,代わりに根回しのような政治力と,惰性ながらも仕事はこなすまじめさを獲得した。こんな先輩を反面教師にできているだろうか。自分の職務能力が伸びていると実感できているだろうか。もし,その自信がなくなってきたなら,辞め時だ。

 「会社にとどまり続ければ,給与ダウンや仕事のやりがいを失うリスクを回避できる」。そんな時代はとっくに過ぎ去った。30歳すぎの人には「5年後の給料が今より高いなんて,まさか信じていないよね」と言いたい。企業から見て35歳までならほとんどの場合,安い給料で十分な仕事をしてくれる“お得”な人材だ。この間に,後の仕事人生に対する“貯金”をしておかなきゃならない。その蓄えに最も有効なことが,冒頭に述べた要望だ。35歳を超えると,企業は技術者に対して,チームを率いるマネジメント力か,長きにわたって技術成果を出し続ける高度なスペシャリティーを求める。

I&Gパートナーズ 代表取締役の新居佳英氏
I&Gパートナーズ 代表取締役の新居佳英氏
上智大学 理工学部卒業後,インテリジェンスに入社。時150人ほどだった同社にて人材紹介事業を立ち上げ26歳で関連会社の代表取締役を経験。2003年10月にI&Gパートナーズを設立。

 こうした力を高めるためにもう一つ有効なのが,交友関係だ。技術者は外に出掛ける機会が少ないだけに,どうしても世界が狭くなってしまいがち。それでは自分を駆り立てられない。もし優秀な中国人技術者と友人ならば,「あいつならこの課題をどう片付けるだろう。よし,自分はこうやってやる」と考えられる。人脈を広げようとしても,最初は気後れして当然。話題だってかみ合わない。でも,そうした体験をすることが,間違いなく自分のためになるはずだ。