40代,男性EMC試験器

【事例4】
納得できる技術者人生を
全うするために

 主にEMC(電磁雑音)試験器などの開発を手掛けてきたBさんは,2度の転職を経験している。どちらも,技術にかかわるやりがいのある仕事をしたいという思いを貫いた。

 工学部電気科卒業後,希望通りの測定機メーカーに入社し,デジタル機器の開発に携わった。しかし,入社3年目,その会社は業績不振に陥り,開発部を縮小するために技術者の配置転換を行った。新たな異動先は「特販部」という名の,新しい営業部隊だった。

 技術者として,その会社の製品の良いところと悪いところの両方を知っている。技術者の良心として「良いところだけを並べて,これはスゴイので買ってくださいなどと言えなかった」。毎日のように悩み,精神的にかなり不安定な状態になっていった。

 そんなとき,様子がおかしいことに気付いた先輩が,声を掛けてくれた。先輩に正直に話をするうちに,自分のことが客観的に見えるようになり,ふんぎりがついた。今の仕事は自分には向かない。辞めることなど考えたこともなかったが,後のことは何も考えずに会社を辞めてしまった。

 さて,どうしよう。何度かハローワークなどに行ってみたが,いい仕事は見つからなかった。後先考えずに飛び出したことを少し後悔した。そうして離職期間が2カ月を過ぎたころ,前職の先輩から連絡があった。「まだぶらぶらしているのなら,あの会社に行ってみろ」。紹介された会社は,実は前会社の社員が多数移っているところだった。そのツテもあって,Bさんはそこでまた技術者としての仕事を見つけることができた。EMC試験器の開発はやりがいがあり,そこでの5年間は充実していた。しかし,また不況の波が押し寄せてきた。

 会社の業績が下がると,社員が少しずつ辞めていく。一方で,残った社員の仕事は増えていく。会社の雰囲気も悪くなり,仕事はどんどん忙しくなる一方だった。また,カスタム部品の製造が中止になったため,開発は単に既存部品を選定して組み合わせるだけという面白みのない仕事になっていた。こうした現場の状況を会社の上層部に訴えてみたものの,改善される兆しはなかった。そして2度目の転職を決意した。

 前回の反省を踏まえ,今回は在職中に職探しを始めた。最終的に雑誌で見つけた求人広告に応募して,現在の会社に入社した。それから約10年,ライフワークともいうべきEMC対策の調査・研究を続けている。

 大きな変化もあった。地方勤務になったことだ。これには善しあしがある。都心部と異なり,地方は家にも仕事場にもゆったりした広さがあり,通勤ラッシュもない。生活費も安い。その一方で,展示会やセミナーなどに行く機会が減るので,情報の入手に手間がかかる。いい意味でも悪い意味でも,人生の先行きが見えてしまうのも地方生活の特色かもしれない。

 とはいえ,転職して良かったと思っている。技術者はやはり,自分が面白いと感じる仕事でなければ続けられない。転職によって,自分を見つめ直すことで適所を見つけられる可能性がある。「つまらないと思いながら仕事をするのは,会社にも社員にもマイナス」。紆余曲折こそあれ,やりたいことを貫くのが技術者にとっての幸せなのだという。