【事例3】
視野を広げれば国籍は関係ない

 転職を検討する技術者にとって,対象は国内企業に限らない。グローバル経済に移行した今,将来の成長性から新興国企業も選択肢に入ってくる。国内メーカーからインド,中国の新興国企業に転身した二人の事例を見てみよう。

海外研修が転機

ウィプロ・テクノロジーズの富山麻由美氏
ウィプロ・テクノロジーズの富山麻由美氏

 「40歳を迎えたとき,もっと広い世界を知りたいと思った」。インドの大手IT企業Wipro Technologies社の日本法人,ウィプロ・テクノロジーズに務める富山麻由美氏はそう語る。

 富山氏は大学を卒業後,大手光学機器メーカーに入社し,測量機の開発にかかわった。同氏にとって人生の大きな転機になったのは海外研修に参加したことだ。ニューヨークに1年ほど滞在し,英語学校に通うなどして英語力を鍛えた。研修後には,米国のソフトハウスとのコーディネーター的な役割を果たした。

 その後,米国のGPSメーカーとの合弁企業へ出向することになった。そこで,ノンプリズム型測量機のプロジェクト・マネジメントを担当した。その経験から学んだのは「開発の全体から弱そうな部分を見つける,リスクを察知する力」だという。

仕事の幅を広げたい

 そうしてふと気付くと,間もなく40歳を迎えようとしていた。自分の人生を振り返りつつ考えたのは,「もっと広い分野を見てみたい。自分のマネジメント能力がどこまで通用するのか試してみたい」ということだ。

 そこで,人材紹介サービスなどに登録して転職活動を始めた。外資を視野に入れたのは,国内メーカーよりもいろいろな技術者に会える機会が増えると思ったからだ。加えて,外資の方が技術系の女性を受け入れてくれる可能性も高い。こうしてウィプロへの転職が決まった。不安要素よりも,「インド企業という未知なものに対する興味の方が強かった」という。

 現在はウィプロがプロジェクトを受託している国内企業に出向いて,システム開発の効率化や弱点の改善などを提案するプロダクト・コンサルティングの仕事をしている。「不満はどこに行ってもある。ゴールに向かってそれをどう解決するかが大切。キャリア・ステップは,そうした学びの場としてとらえればいい」。新興国企業という未知なる存在の前に尻込みするよりも,それをチャンスとして飛び込む方が,得るものが大きい。富山氏の生き方は,前向きな姿勢の重要性を教えてくれる。

どこだろうと気にしない

ファーウェイ・ジャパンの友谷康浩氏
ファーウェイ・ジャパンの友谷康浩氏

 NTTドコモエンジニアリングで無線通信機器を担当していた友谷康浩氏は,中国HuaweiTechnologies社の日本法人ファーウェイ・ジャパン(華為技術日本)を転職先に選んだ。外資系で,しかも新興国企業であるかどうかなど気にしていなかった。給与面にもこだわりはない。自分が望む仕事があるかどうかが一番の条件だった。「技術者として常に新しい技術や機械に触れていたい」。

 前会社では無線基地局向けの通信機器の開発や保守に従事していた。ウィプロの富山氏同様,転機は英語だった。入社3年目に,社内で英会話のレッスンを受けることになった。業務命令であり,断ることはできない。週1回だったが,3年も続けているとだんだんモノになる。それと同時に,海外事業者とやりとりして,国際ローミングの開通試験を行うなどの仕事も担当するようになった。

 30歳を過ぎたころから,周囲を見回す余裕ができた。このままでは,自分の技術レベルが伸びないのではないかと不安に思い,転職を検討し始めた。「技術者として成長できるところに行きたい」。

自分の成長を実感できる

 そんなとき,イー・モバイルが2007年からサービスを開始する携帯電話事業のネットワーク・サプライヤーとしてHuawei社を追加したことを知った。同社の名前は海外オペレーターとの会話の中で聞くことがあったが,転職先として意識したことはなかった。

同社で新しいプロジェクトが始まることを知って,「これは良い機会だ」と思った。Huawei社のWebサイトで人材募集を見つけると,直接応募した。

 現在,中国でグローバル向けに生産される通信機器を,日本で安全に使えるようにカスタマイズし,チェックする仕事などを担当している。扱っているのは,W-CDMA方式の無線装置と制御装置などである。

 同社の強みは,開発のスピードと低価格にある。そのため,仕事のやり方はきっちりしている。良い意味で,能力主義的な環境が自分に合っていると感じている。上司は中国人。周囲の中国人技術者の優秀さには驚かされることもあり,それが刺激になる。

 勉強しなければならないことも多いが,その分だけ自分の知識や技術レベルが上がっているのが分かる。働きぶりが認められて,社長賞を受賞するなどした。「仕事の内容と自分のパフォーマンスが連動して上がっている実感がある」。前の会社の同僚とたまに会うことがある。そのとき,自分は彼らよりずっと技術スキルが上がっていると感じる。周囲に刺激がある方が人間は成長する。