私は学生時代、自分が「デザインとは何か」ということを理解していると思っていた。すべての新米デザイナーがそうであるように、私は椅子を作りたかった。そして、ロンドンのHeathrow空港の第一ターミナルでその夢をかなえた。しかし、そのことと王立美術学校(RCA)で過ごした3年間によって、私はスタイリッシュな座り方というよりは、構造や材料、問題解決について学ぶことになった。

 王立美術学校という名前は、実はあまり正確でない。それは単なる美術学校ではないからだ。確かに、David Hockney氏とTracy Emin氏もそこを卒業したが、Aston Martinの「DB7」のデザイナーであるIan Callum氏やソニーのウォークマンの開発に関わったRoss Lovegrove氏も卒業生である。そこはエンジニアとデザイナー、そして科学者の努力が一つにまとまる場所なのだ。実際、近くにあるImperial College Londonに在籍するエンジニアの多くが、インダストリアル・デザイナーになるためにRCAに進学している。RCAは完全主義者、つまり問題を解決策に変える能力を持った、理想的な学者を作り出す場所である。私にとっては、デザインとはエンジニアリングのことなのだ。

 今日、RCAは英国のバタシーにおいて40の新しいインキュベーターを建設するという目標の半分を達成している。目標は金の卵を孵化させることである。インキュベーターによって新興企業は、最も不安定な時期に場所と精神的支援、そして相談ができる専門家を得ることができる。(ノウハウはなかったが)野望に燃えていた二十歳の私であったら、企業家精神を持った人々のコミュニティを、かけがえのないものだと感じていただろう。また少なくとも、そのような仕組みがあれば、私は5127個もの掃除機を試作する必要がなかったかもしれない(何しろ、真ちゅうを巻く作業はとりわけ困難だった)。

 英国の学生は、不況を脱する手段を考え出し、それを輸出するだけの能力を持っている。つまりアイデアを持って、それを商品化する。先導するのは政府の仕事である。しかし、イングランド高等教育助成会議(HEFCE)は芸術系の高等教育に対する助成金を最大で80%減らそうとしている。これは後退だ。STEM(science, technology, engineering, and mathematics)系の学科は脆弱である。私たちはデザイン系の学科を寒空の下に放っておくことになる危険を冒している。

 私は幸運にも大学の補助金をもらうことができた。しかし、今日の多くの想像力を持った人たちが、学ぶ機会すら与えられていないことを危惧している。もし教育に関連する基金が減らされてしまえば、その分の埋め合わせとして授業料が値上げされるだろう。英国の学生、とくにイングランドの学生は締め出されることになってしまう。そして私たちは、素晴らしい製品を輸出する代わりに、自分たちのスキルや専門知識を世界に売り渡すことになるだろう。私たちが競争相手を強化してしまっていると気づくまでは、それも仕方のないことだ。

 彼らのアイデアを守るためには、時間とお金がかかる。特許は安くないということである。そして大胆なアイデアを育てるには支援が必要だ。私の事業は、物置小屋で不安定なスタートを切った。当時私は、工作機械を買うために借金をしたのだが、今では銀行は貸し出しをしていない。政府のEnterprise Investment Scheme(EIS、有力な非上場小企業のための税負担の軽減)は、今まで以上に規模を拡大する必要があるだろう。
 RCAのインキュベーターが2012年に完成すれば、多くの学生を集めることになる。彼らは専門家やエンジェル投資家に指導を受け、同じ考えを持つ起業家と投資家がお互いを刺激し合いながら前進していくだろう。