この十月、日本で「ダイソン・デザイン・アワード2004」の授賞式を開催した。このアワードは日本のデザイナーやデザインを学ぶ学生から、新しい商品のコンセプトとデザインを募る試みで、今年で三回目を迎える。審査の着眼点は、技術とデザイン、市場性が一体となって一つのビジョンを生み出しているかどうかである。私自身が応募作品を審査し、金賞受賞者には賞金三百万円を提供した。

 金賞に選出したのは、「CHIKUWA(ちくわ)」と名付けられたゴム製のヘアドライヤーだ。柔軟なカーボン面状の発熱体にファンを組み合わせ、筒状の断熱ゴムで覆ったもの。筐体(きょうたい)がゴムなので、利用する顧客は送風口を細くしたり大きくしたりして、ボタンを使わずに風量を調節できる。従来のドライヤーは発熱体にコイル状のニクロム線を採用しているが、高温になるためドライヤーの機能や形状が制約されていた。「CHIKUWA」はカーボン発熱体という新素材を採用することで従来と違う利便性を顧客に提供でき、デザインも斬新なものとなった。まだ試作段階ではあるが、今後の可能性を強く感じさせる製品だった。

 デザインと技術、そして市場性が一体となって一つのビジョンを打ち出す。これこそが当社がやってきたことである。

まったくの新技術を導入

 世に掃除機が誕生して百年以上たつが、現在に至るまでイノベーションと言える変化は皆無に等しかった。モーターで風を起こしてゴミを吸い込み、紙パックでゴミを集めるという機構を、掃除機の代名詞である米フーバーが、そして日本の大手家電メーカーが脈々と受け継いできた。

 当社製品の機構はこれとは全く異なる。高速のサイクロン(遠心分離型集塵機)によってゴミと空気を分別する。分別したゴミやホコリを「クリアビン」と呼ぶ透明のビンにためておき、そのままゴミ箱に捨てられる。

 紙パックを使うと、掃除している間に紙パックの目にホコリが入り込んであっという間に目詰まりを起こす。こうなると掃除機の吸引力は急速に衰える。紙パックを使わないサイクロン方式なら、吸引力はいつまでも持続する。だから部屋の微細なホコリまで吸い込むことができる。さらにホコリを含まない空気だけを排気するので、普段吸っている空気よりずっとクリーンな空気が排気として部屋に戻される。このサイクロンこそが当社のコア・テクノロジーである。

 サイクロンを考案したきっかけは、以前の仕事で粉末塗装設備を導入したとき、粉末の残骸の処理に頭を悩ませたことにあった。サイクロンを使った粉末処理専用機械があると知ってその構造を学び、自分でも好奇心から試作品を作ってみた。そしてこの機構が家庭用の掃除機にも採用できることに気付いたのである。自分自身が掃除機を使うとき、紙パックがすぐに目詰まりして吸い込めなくなり、イライラした経験があったことも影響している。

 創業当初、サイクロンの仕組みを流通や提携相手に説明するたびに言われたものだ。「そんないいものならフーバーがとっくにやっていたはずだ」と。でも彼らも他のどの家電メーカーもやらなかった。だから私たちは現在このポジションを得ている。私たちの成功を見て、他のメーカーも「サイクロン」と銘打った商品を次々と発表している。しかしテクノロジーは全く違うものであり、吸引力が衰えないのは当社の商品だけだ。他社はマーケティングのために「サイクロン」という言葉を使っているにすぎない。