東京スカイツリーは電波塔である。その意味で、アンテナは東京スカイツリーの存在意義を担う最も重要な部品といえるだろう。

 そのアンテナでは、向きの精度が性能上非常に重要だが、これまでにない高さに設置されたことで向きの精度をどう確保するのかが課題となった。特に懸念されたのが、風の影響。第4回で紹介した制振装置によってゲイン塔の揺れは抑えられているが、アンテナ側でも風対策が必要だった。

1300年に1回の事象を想定

 東京スカイツリーには、テレビ放送、FMラジオ放送、タクシー無線、携帯端末向けのマルチメディア放送などのアンテナが設置されている。これらのうち、日立電線が受注したアンテナはゲイン塔の上部、制振機械室のすぐ下側にある4ユニットで、在京のテレビ放送局6社の地上デジタル放送用アンテナである。その設置高さは600m付近になる。

図1●東京スカイツリーに設置したアンテナ1面<br>カバーの形状を滑らかにすることで、風からの抵抗を小さくするとともに剛性を高めた。写真:日立電線
図1●東京スカイツリーに設置したアンテナ1面
カバーの形状を滑らかにすることで、風からの抵抗を小さくするとともに剛性を高めた。写真:日立電線
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 遠くからは1ユニットが1つの白い円筒に見えるが、実は、これは小さなアンテナの集合体である(本解説の表紙ページにある図の中央左側のCGを参照)。アンテナ1面は底面が約150×400mmのかまぼこ型(図1)。これを縦向きに配置してゲイン塔の外周部を40枚で1周するように等間隔で並べ、4段積み重ねると1ユニットとなる。つまり、1ユニットは160面のアンテナで構成される。

 東京スカイツリーに設置する上では、最大瞬間風速110m/秒の強風に耐えることという厳しい条件を設定した。従来の高さ100~200mの電波塔では想定する最大瞬間風速は75m/秒なので、その約1.5倍。これは、理論上1300年に1回、吹くか吹かないかという強風である。

 それでも、強風によってアンテナが変形しては、電波の正確な送信に支障を来してしまう。そこで日立電線はアンテナの形状を改良した。

 アンテナ1面は、反射板とアンテナ素子部、カバーで構成される*1。素子部の幅を狭くするなど形状を工夫した上で、カバーを前述のように丸みを帯びた形状とした。

*1 アンテナに求められる特性に応じて、反射板の形状は微妙に異なっているという。

図2●従来の超広帯域双ループアンテナのカットモデル<br>カバーの形状がやや角張っている。内部のアンテナ素子は黄銅板を打ち抜き加工した。写真:日立電線
図2●従来の超広帯域双ループアンテナのカットモデル
カバーの形状がやや角張っている。内部のアンテナ素子は黄銅板を打ち抜き加工した。写真:日立電線
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 従来のカバーは、内部に収めるアンテナ素子部の形状に合わせてやや角張った形状だった(図2)。これを、両端を丸めたかまぼこ型に変更した。風から受ける力を弱めると同時に、剛性を高めて風を受けたときの変形量を小さくするためだ。

 カバーは厚さ数mmのGFRP(ガラス繊維強化樹脂)製で、強度のバラつきを抑えるために成形条件を最適化し、ガラス繊維が均一に分布するように工夫している。