東芝エレベータは2種類のエレベータを納入した*1。1つは、日本最長となる464.4mの昇降距離を持つ業務用エレベータ。長い昇降距離ゆえに増加する質量への対応が必要だった。もう1つが定員40人と大容量ながら600m/分の高速昇降を実現した、地上と展望台を結ぶエレベータ。こちらは乗り心地の向上にこだわった。順番に見ていこう。

*1 業務用エレベータは2機、地上と第1展望台を結ぶエレベータは4機納入した。東京スカイツリーでは、東芝の他、日立製作所が第1展望台と第2展望台を結ぶエレベータなど7台を納入している。

カゴをつるすロープで約10t

 まず、日本最長のエレベータ。「昇降距離が長くなると、必然的に巻上機で支える質量が大きくなる」(東芝エレベータビルディング事業本部ビルディング技術部部長の藤井知秀氏)。このエレベータで使うワイヤロープの長さは500m強。ワイヤロープ1本の質量は約1tに達し、これを10本使う。さらに、カゴやカウンタウエイト、コンペンセータ*2などが加わり、総質量は約40tにも及ぶ。

*2 コンペンセータ カゴの下面とカウンタウエイトの下面をつないだワイヤロープ。昇降距離が長いエレベータなどで採用されており、カゴが最上階や最下階にあるなど、つり下げ用ワイヤが偏った場合のアンバランスを解消する。

 もちろん、できる限りの軽量化に取り組んだ。例えばワイヤロープでは、通常使われる「A種」ではなく、それよりも引っ張り強さが約1割高い「B種」をエレベータでは初めて採用。これによってワイヤロープの使用本数を減らし、約2t軽量化した*3

*3 ワイヤロープはテザックワイヤロープ(本社大阪府貝塚市)の製品を採用。

図1●東京スカイツリー向けに開発した巻上機の試験機
昇降距離464.4mの実現に伴って増大した約40tという質量を支え、駆動する。写真は、東芝エレベータの府中工場エレベーター研究塔で撮影したもの。

 このような対策をしても40tという従来にない重さになってしまう。「巻上機のシャフト、軸受などの仕様などを吟味し、この質量に耐えられるよう多くの部品を特注した」(同氏)。

 質量増加による負荷増大は、巻上機の高出化も要求する(図1*4。ただし、機械室のスペースは限られるので、コンパクト化は必須だ。そこで特に課題となったのが冷却だった。

*4 巻上機には日本精工の自動調心ころ軸受を採用。ころと内輪や保持器の隙間の最適化、真円度や粗さの改善によって回転音や振動を低減している。

 機械室の温度は45℃以下を想定。モータの回転に伴って発生する空気流を活用する、「自力通流方式」で冷却する。限られた空間の中でどう効率的に冷却するのか、シミュレーションや実験による試行錯誤を重ねて空気の流れや熱の伝わり方などを最適化して解決したという。