第12回で紹介したように、日立電線の高砂工場(茨城県日立市)では、化合物半導体の生産に使うクリーンルームの空調に多くの電力が消費されており、改善の余地は大きいと見られていた。

 例えば、空調機から戻ってきた冷却水が再び冷凍機に入る際の温度(入口温度)は、定格値が15℃なのに対し、実際は11℃前後で推移していた。これは、冷却水をの冷やしすぎの状態であり、冷凍機の運転効率の低下を招いていた。冷凍機の稼働台数もしかり。空調システムでは、あくまでクリーンルームの温度が最も重視すべき制御対象であり、冷凍機の稼働台数を多めにして同温度の厳守を図っていた。もっとも、こうしたムダに見える部分は、システムの「安全率」と表裏一体になっている。安全率を削るという危険を冒してまで省エネルギ化を進める考えは、冷凍機メーカーにはない。

「重要管理点」だけ見ればいい

 それでも同社産業インフラ事業本部生産技術部主管技師、建設・空調・省エネルギー技術管掌の田代完二氏は、こうしたムダに切り込まなければ省エネルギ化を実現できないと考えた。そこで、クリーンルームの温度管理の在り方を根本から改めた。すなわち、部屋全体の温度を均質に保つことを放棄したのだ。

 同氏は、工場の建設に関わった経験から、部屋全体の温度を管理する必然性はあまりないと考えていた。「本当に重要な数カ所だけをピンポイントで見ておけば、十分に品質を確保できる」(同氏)。その際に管理する対象を、同氏は「重要管理点」と呼ぶ。実際、同氏がこうした温度管理の考え方を半導体化合物の製造担当者に伝えると、すぐに重要管理点の候補を挙げてきたという。製造の現場でも、部屋全体の温度を管理することはそこまで重視していなかったのである。

 ならば、なぜ空調システムには部屋全体の温度を均質に保つことを求めるのか。それは、ノウハウの流出を防ぐためだ。温度管理に関する細かな要求を建設業者やエンジニアリング会社に教えれば、その情報が競合企業に流出する恐れがある。その点、社内の田代氏が空調システムの制御設計を行うのであれば、機密情報である重要管理点に基づいたきめ細かい温度管理を実現できる。