「ただいま銀座駅は大変混雑しており、改札から外に出られない状況です。パレードへお越しの方は、一つ手前の新橋駅で降りて銀座方面へお歩きください」――。 

8月20日に東京・銀座で行われたメダリスト・パレードの一幕

 2012年8月20日の午前11時前。東京メトロ銀座線の車内ではこんなアナウンスが流れた。その指示に従って、新橋駅で降りる。地上に出ると、銀座8丁目の交差点付近の歩道に、無数の人が溢れかえっていた。沿道を固める警備員の多さも半端ではない。「前方に詰めるのは危険ですから絶対にやめてください。後ろに下がった方が、選手たちの姿はよく見えます!」と口々に叫んでいる。

 銀座8丁目の交差点は、予定されていたパレードの最終地点。もっと中間の地点で見たいと思ったが、後に50万人規模だと知った、あの人混みをかき分けてたどり着けるとは思えなかった。11時半近くになり、ようやくメダリストたちを乗せたバスが数台連なってやってきた。先頭のバスには、女子卓球の石川佳純選手の姿が見える。続いて、ハンマー投げの室伏広治選手、そして男子体操の内村航平選手…。最終地点だったからか、バスは目の前を加速して通り過ぎた。5分ほどの間に、すべてのバスが目の前を走り去る。隣にいた男性が舌打ちした。「わざわざ会社を休んできたのに、これだけで終わりかよ…」。

 ロンドン五輪への国民の熱狂ぶりは、近年のオリンピックでもまれに見るものだったといえるだろう。それだけ、日本人選手や日本代表チームがドラマチックな活躍を見せた競技が多かった。産業能率大学 スポーツマネジメント研究所が8月21日に発表した調査結果によれば、国民にとって、今回の五輪の「感動度」の首位は女子卓球の福原愛選手、2位が同じ女子卓球の石川選手、3位がサッカー女子の澤穂希選手だったという。さまざまな競技で日本の「なでしこ力」を世界に示した五輪でもあった。

 五輪の感動を高めたのは、選手たちの華麗なプレーや必死な姿だけではない。選手たちの動きを克明に捉えた放送用カメラをはじめとする、エレクトロニクス技術の貢献も大きい。メダリスト・パレードが行われた8月20日の午後にソニーが開催した、新型CMOSイメージ・センサに関する記者発表会(Tech-On!関連記事1)。会見後の“囲み取材”で、同社のデバイス事業を統括する鈴木智行氏(執行役 EVP コアデバイス担当 コアデバイス開発本部 本部長 デバイスソリューション事業本部 本部長)はこう話した。「今回の五輪は、我々の(放送用カメラ技術などの)宣伝をしてくれたようなものだ。皆さん、テレビ放送のスーパー・スローモーションの映像に感動したでしょう。あれは本当にスポーツの醍醐味を伝える技術だと今回、実感した。ああいう技術を、今後は我々の家庭用機器に持ち込みたい」。

 万人を熱狂させる力を持つスポーツは、大きなビジネス・チャンスでもある――。ロンドン五輪での日本人選手たちの活躍や国民の熱狂ぶりを見て、そう感じたエレクトロニクス業界関係者は少なくなかったはずだ。