エレクトロニクス技術を核にした新しいスポーツ競技が生まれ、五輪のような世界的スポーツイベントに採用される――。

 そんな夢のような未来がいずれ訪れるかもしれない。最も近い位置にあるのは、ゲーム・ソフトの分野だ。この連載で何度か取り上げてきたセンサの小型化、価格低下、そしてインターネットのWebサービスの興隆は、その土台を築き上げ始めている。(第3回の「ないものは作ればいい、新ハードウエア・ビジネスの勃興」はこちら、第6回の「スマートフォン革命、センサの小型化がもたらすもの」はこちら

 「五輪大会は英語で『Olympic Games』でしょう。スポーツは歴史をひも解くと、もともとゲーム的な要素の強いものだし、ゲームそのものと言ってもいいと思う。だから、スポーツとゲーム・ソフトは、親和性が高いはず」。

 こう語るのは、ソフトウエア開発を手掛けるエウレカコンピューターでeスポーツプロデューサーを務める犬飼博士氏だ。同社は、「eスポーツグラウンド」と呼ぶスポーツ施設向けのシステムの開発を進めている。目指しているのは、センサで捉えた人の動きデータと、ゲーム・ソフトの技術を組み合わせた、新しいスポーツの形の提案である。

仮想のボールを競技者が打ち合う

 同社のシステムは既に、フィットネスクラブ大手のルネサンスが東京都内の2店舗に導入している。競技場は、6.4m×4.0mほどのフィットネス・スタジオだ。その天井の四隅に人の動きを捉える距離画像センサと、競技用の仮想的なボールなどを床面に表示するためのプロジェクタが設置してある。ソフトウエアを処理する環境は、主にゲーム・ユーザーが使う3次元グラフィックス処理用ボードを搭載したパソコン上位機種2台だ。


eスポーツグラウンドでプレーする様子

 eスポーツグラウンドで行われるスポーツは、まさにゲーム・ソフトの仮想世界と、リアルな人体の動きの融合したものである。例えば、「eスポーツボール」という種目は、ちょうどゲームセンターにある「エアホッケー」のような競技だ。床面に投射された仮想のボールを、二人のプレーヤーが全身を使って打ち合う。プレーヤーは前後左右に移動しながらゴールを目指して相手のコートに打ち返す。

 床面には、距離画像センサで捉えた身体の大まかな投影図が表示される。その投影図やサイドラインにボールが当たると、ぶつかった角度や速度に応じてボールは反発し、床面を移動する。エアホッケーのように意外な角度から高速で移動してくるボールに反応し、相手コートに打ち返す動きはかなりハードだ。

 この他、ゴール地点のマスで指定した数になるよう、計算しながら数字が表示されたマスを踏んでいく「ウォーク・デ・カルク」と呼ぶ“競技”もある。身体のフィットネスと、脳の働きを高める脳トレを組み合わせたゲームだ。