世界一のフィットネスで世界トップ10の地位を獲得する――。

 ラグビーの日本代表チームが、2015年にイングランドで開催される第8回ワールドカップ(W杯)までの実現を目指して掲げた目標だ。

2012年4月に敵地で行われたラグビーのアジア5カ国対抗戦の「日本対カザフスタン戦」では、日本代表の主将を務める廣瀬俊朗選手(東芝ブレイブルーパス、写真中央のボールを持った選手)がGPS計測装置を着用して出場した。(写真:(C)2012, JRFU Photo by RJP)
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 日本では、その4年後の2019年に第9回ラグビーW杯の自国開催が決まっている。ラグビーW杯はサッカーW杯や五輪に続く、世界で3番目に大きなスポーツ・イベントとされる。

 アジアで初めてのW杯を成功裏に開催するには、日本代表の勝利が欠かせない。加えて、2016年にブラジルのリオデジャネイロで開かれる次回の五輪では、7人制のラグビーが男女で正式種目になる。それらを見据えた強化が本格化しているのだ。

 強化策の目玉として、ラグビー日本代表は2012年4月にEddie Jones(エディー・ジョーンズ)氏をヘッドコーチとして迎えた。監督としてオーストラリア代表チームを、2003年のW杯で準優勝に導いた世界的名将だ。2010~2012年には、日本のトップリーグのサントリーサンゴリアスで監督を務めて日本一のチームに育てている。

 エディージャパンが掲げるスローガンは「Japan Way」。日本人選手の俊敏性を生かした攻撃的なスタイルの戦術である。これを徹底することで、現在15位前後の世界ランキングを引き上げ、「世界トップ10」の一角に入ることを目指す。この目標のハードルは高い。世界の上位10カ国には、ニュージーランドやオーストラリア、南アフリカ、英国4カ国、フランスなどの強豪国がひしめくからだ。

世界一の目標を支えるGPS計測装置

ラグビー日本代表ストレングス&コンディショニング コーディネーターのJohn Pryor氏
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 Japan Wayに必要な条件が「世界一のフィットネス」。これを現実にするため、日本代表チームで尽力する人物がいる。「JP」の愛称で呼ばれる、ラグビー日本代表 ストレングス&コンディショニング コーディネーターのJohn Pryor氏だ。オーストラリア出身の同氏は、バイオメカニクス分野の専門家でもある。Jones監督と共にラグビーのオーストラリア代表やサントリーでフィットネス強化のコーチを務めてきた。

 「世界一のフィットネスの実現には、少なくとも2年くらいは必要」と、Pryor氏は日本代表のフィットネス強化計画を見据える。それを現実にする武器がエレクトロニクス技術だ。実は、ラグビーはGPSを用いて選手のパフォーマンスを計測する手法の導入が世界規模で進む競技の一つ。国際ラグビー評議会(IRB、International Rugby Board)は、対戦相手の許可などの条件付きで試合中に小型の計測装置を着用することを認めている。国内でも、トップリーグのチームなどで活用が進む。

日本代表が着用しているものと同じタイプのGPS計測装置。オーストラリアのGPSports社製(日本代理店はフォーアシスト)。
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 計測装置の開発元は、オーストラリアのGPSports社などの海外企業だ。ちょうど手のひらサイズの装置で、専用のベストのポケットに収めて背骨の上に位置するように着用する。ラグビーは試合や練習で生身の選手同士が何度も激しくぶつかる格闘技の要素を持つ。装置の着用は傷害につながりそうな印象もあるが、過去5年間に計測装置の着用が理由のケガは世界でも報告がないという。