米国ポートランド近郊にある米Nike社の本社キャンパス。スポーツ用品大手として有名な同社で、毎週水曜日に朝食をとりながら、“デジタル”について語り合うミーティングが開かれている。社員がエレクトロニクス技術を用いたスポーツ・グッズを試し、新しいアイデアを考え出すキッカケづくりにすることが目的だ。

 Nike社は、2006年に米Apple社の携帯型メディアプレーヤー「iPod」などと連携する歩速センサを製品化。それ以来、ランニング分野を中心に「Nike+」ブランドで展開するデジタル・スポーツ関連製品を世に送り出してきた。2012年に入って、その取り組みが本格化している。

Nike社のバスケットシューズ「Nike Hyperdunk\+」。
Nike社のバスケットシューズ「Nike Hyperdunk+」。
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ソールの部分に内蔵した圧力センサなど。
ソールの部分に内蔵した圧力センサなど。
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 まず、どれくらい歩いたり、走ったり、動いたりしたかなど、利用者の1日の行動を計測するリストバンド型の活動量計「FuelBand」を発売した。運動をしている時間以外にも、利用者がNikeブランドに触れることを意識した製品だ。

 そして、2012年6月には、バスケットボールやトレーニング用に、各種センサをソール部分に組み込んだスポーツシューズの新シリーズを製品化した。圧力センサや加速度センサを標準搭載することで、利用者がジャンプする際に床に加わる力や、ダッシュの回数、加速の様子などを定量化できる。これらの情報をスマートフォンなどを通じて収集し、Webサービスでデータを可視化する。このサービスが、プレーのパフォーマンスやフィットネスを向上させるヒントになるというわけだ。

本丸の製品にデジタル技術を導入

 このシューズがNike+関連のこれまでのデジタル・グッズと異なる点は、腕時計やリストバンド型といった専用の計測機器ではないということだ。Nike社の本丸である既存のスポーツ用品分野の製品にセンサを内蔵した。デジタル技術を活用した新しいスポーツ関連サービスの開拓を目指す同社の意気込みが表れていると言えるだろう。

Nike社 VP,Digital SportsのStefan Olander氏
Nike社 VP,Digital SportsのStefan Olander氏
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 水曜日のミーティングは、こうしたデジタル・スポーツ分野のさまざまな製品を評価する場だ。「Nike社員は、“スーパーユーザー”でもある。自分たちで感じたことや意見を交換することが、製品の仕様を改善することにつながっている」と、Nike社でデジタル・スポーツ関連事業の責任者を務めるStefan Olander氏(VP,Digital Sports)は話す。

 デジタル技術でスポーツ分野を変革する。Nike社の取り組みは、その代表的な例の一つだ。ドイツadidas社も「miCoach」ブランドを打ち出し、加速度センサや心拍計などを用いたデジタル・スポーツ関連製品に本腰を入れている。

 「スポーツの世界では、身体の動きを計測したデータのニーズや重要性が非常に高まっている。動きデータとWebサービスを組み合わせることで、データを分析し、利用者のトレーニングを支援する取り組みの現実味が増した」。アディダス ジャパンでデジタル・スポーツ関連製品を担当する山下崇氏(スポーツパフォーマンス事業本部 miビジネスユニット シニアマネージャー)は指摘する。