一方、東京電力は、圧力逃し安全弁作動による圧力抑制室の動荷重については安全審査指針で考慮しており、その影響は小さいとみている。実際、原子力安全委員会が作成した「BWR・MARK I型原子炉格納容器圧力抑制系に加わる動荷重の評価指針」には、冷却材喪失事故時や圧力逃し安全弁作動時に圧力抑制室に生じる動荷重に対する技術基準が定められている。図6は、圧力逃し安全弁が作動した時の現象(ドライウエル空間が水蒸気で加圧される現象を含む)をまとめたものだ7)。その時の動荷重対策としては、[1]弁の開始直後、排気管内にたまっていた水のクリアリングによる噴流によって構造物に加わる衝撃荷重、およびドラッグ荷重、[2]クリアリングに引き続き、排気管内にたまっていた非圧縮性ガスがプール内に噴き出して膨張・収縮することによって構造物に加わるドラッグ荷重、[3]排気管からプールに流入する蒸気が不安定となって生じる、構造物に加わるドラッグ荷重、[4]弁作動時にクエンチャ自身に加わる荷重、を設計で考慮することになっている7)。こうしたことから、圧力逃し安全弁の作動と2号機の圧力抑制室の損傷を直接結びつけることは難しい。

図6●3圧力逃し安全弁が作動したときの現象
図6●圧力逃し安全弁が作動したときの現象
圧力逃し安全弁が作動すると、(a)原子炉内の高圧蒸気が排気管内に流入して管内の圧力・温度が上昇する。すると、管内の水柱が圧力抑制プールに押し出され、排気管系に荷重が加わる。その後、(b)排気管内の非凝縮性気体がプール水中に押し出され、圧力抑制プール壁には振動荷重が、水中構造物にはドラッグ荷重がかかる。原子力安全委員会の資料を基に本誌作成。

 この他に考えられる可能性といえば、施工時の溶接欠陥や、圧力抑制室の材料である炭素鋼の腐食による減肉くらいである。溶接欠陥は通常、定期点検の際に実施される溶接部非破壊検査によって発見できる。37年間にわたって全く検査していなかったというのであれば話は別だが、検査を実施してきた以上、溶接欠陥による損傷は考えにくい。水による腐食も、損傷個所が圧力抑制室の上部であることを考慮すれば、その可能性はなさそうだ。

 繰り返しになるが、図5を見ると、どうしても圧力逃し安全弁の作動と圧力抑制室の圧力変化は無関係には見えない。たった1回の、しかもほんの短時間の圧力逃し安全弁の作動によって構造物に発生する応力だけを根拠に、今回の損傷を説明することは困難だが、何らかの偶発的要因の発生を想定すればこの可能性は否定できない。東京電力は今後、事故のあらゆる要因の重ね合わせを考慮し、圧力抑制室の動荷重を再評価する必要があろう。

参考文献
1)東京電力,『福島第一原子力発電所 東北地方太平洋沖地震に伴う原子炉施設への影響について』,2011年.
2)東京電力,『福島第一原子力発電所 東北地方太平洋沖地震に伴う原子炉施設への影響について』(改定版),2012年.
7)原子力安全委員会,「BWR・MARK I型原子炉格納容器圧力抑制系に加わる動荷重の評価指針」,http://www.nsc.go.jp/shinsashishin/anzen.htm
8)2011年9月20日付朝日新聞朝刊.