例えば福島県飯舘村では、放射性物質放出時の気象条件の影響を受けたホットスポット現象により、土地汚染がチェルノブイリ原発周辺地域と同等、あるいはそれ以上に進行した*3。つまり福島第一原発事故は、トータルの放出放射能量こそチェルノブイリ原発事故より少ないものの、地域によっては土地汚染や食品汚染がチェルノブイリ原発周辺地域並みの極めて深刻な事態に陥っているのだ。

 これほどの放射能汚染はどのようにして広まったのだろうか。今はまだ、原発施設からの放射性物質の漏洩ルートは十分に解明されていないが、ここでは原発の構造までさかのぼって考えていこう。

ベント操作による放射性物質放出に疑い

 福島第一原発1~5号機のような初期の沸騰水型原子炉(BWR、Boiling Water Reactor)の原子炉格納容器は「Mark I型」と呼ばれ、経済性を追求してコンパクトに設計されている。その結果、原子炉格納容器内の空間容積が非常に小さく*4、苛酷炉心損傷事故が発生した場合には、原子炉圧力容器から原子炉格納容器に放出される高温・高圧の大量の水蒸気により原子炉格納容器が過圧破損して、制御不能な放射性物質放出に至る恐れがある。

 こうした事態を避けるために、原子炉格納容器のドライウエルと、圧力抑制室の水槽の上部空間に当たるウエットウエルにそれぞれベント系を設置している(図11)。今回の事故では、このベント操作に伴い大量のヨウ素131(半減期8.04年)やセシウム137(同30.1年)などの放射性物質が環境に放出されたと考えられているが、筆者はその見方に疑いを持っている。

図1●福島第一原発の設備構成の概要
万一の事態に備え、ドライウエル(D/W)とウエットウエル(W/W)にそれぞれベントラインを設置している。(a)は1号機、(b)は2~4号機のもの。東京電力の資料を基に本誌作成。
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*3 同じ地域でも、三次元的な地形差などの影響を受けて限られた場所で特に強い放射能が観測される。
*4 筆者の計算によれば、1号機の原子炉格納容器は一般的な2階建て住宅の容積並み(縦18×横18×高さ18m程度)。