Moving On with Metadata

 エピソード3で使うには,デジタルHDビデオ・カメラにも改良が必要だった。エピソード2で用いた「HDW-F900」の後継機種が必要になることは,ソニーとLucasfilm社の間で事実上暗黙の了解だった。エピソード2の撮影に入る前,ILM社のFredは,Lucasfilm社とILM社の要求をまとめた長いリストを作った。最初からそれが,エピソード2でできることの恐らく150%には相当することを知りつつ。

 彼は,エピソード2でやり残したことを,エピソード3の撮影に間に合うように片付けようと考えていた。そこでFredとプロデューサーのRick McCallumは,2002年6月に日本を訪れ,フジノンやソニーの工場で技術者たちと議論を重ねた。

 エピソード2でF900の採用が決まった後,三上は他のプロジェクトにかかり切りになった。それでも,Fredと電子メールで連絡を取り合い,ソニーの技術動向を伝えることは忘れなかった。三上はFredがさらに高い映像の品質を求めており,三上がプロダクト・マネジャーを担当する新製品が,それに応えられると信じていた。当時ソニーは,新しいビデオ・テープ・フォーマット「HDCAM-SR」を開発中だった。1920×1080画素で非圧縮の4:4:4のRGB信号を記録できる。松下電器産業の「HD D5」フォーマットと競うために作ったもので,以前からフィルムでコメディーやドラマを撮影してきた,ハリウッドのテレビ制作会社の要求に合わせた。三上はFredを進歩の渦の中にとどめておきながら,新フォーマットを使えば以前のHDCAMが抱えていた色空間の問題を解決できると踏んでいた。

 三上は,Fredの他の要求も知っていた。メタデータの利用である。Fredは,カメラや光学系から,リアルタイムでメタデータを獲得する機能を望んだ。カメラの位置や姿勢,絞りの位置やズーム倍率といった設定をフレームごとに知ることで,撮影した映像をコンピュータ・グラフィックスと合成する際の参考にしようというのだ。例えば,デジタル・ヨーダと生身の俳優を1つのシーンで合成するとき,俳優を撮ったときのレンズの設定データを利用して被写界深度を合わせるといった使い方があり得る。

 ILM社にとってメタデータの利用自体は新しい話ではなかった。エピソード1の撮影時から,彼らはフィルム・カメラのメタデータを記録するシステムを用いてきた。既存のカメラに,記録システムを外付けした「デュアル・システム」である。同様なシステムを,エピソード2でも使った。

Sony’s HDC-F950 HD Camera
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 デュアル・システムの難点は,レンズやカメラの機構部のわずかなズレを検出できないことだった。レンズには,どんなに正確に作っても欠陥が残る。カメラは時としてわずかによろけたり滑ったりする。こうした微細な変化を外付けのシステムでは記録に残せず,映像を合成する際の計算を狂わせることが多々あった。

 「HDC-F950」と呼ばれることになる次世代のカメラで,ILM社はレンズやカメラから直接メタデータを採取することを望んだ。=敬称略