【前回より続く】

 エピソード3で花咲く技術の1つが,「pre-viz」である。カメラで撮影する前に,シーンをコンピュータ・アニメーションで素描する技術で,従来の絵コンテを置き換えるものといえる。この技術を推し進めるため,Lucasfilm社はエピソード2の制作後期に,パソコン業界から米Advanced Micro Devices, Inc.(AMD社)を引き込んだ。

 エピソード2でpre-vizを手掛けたのが,Lucasfilm社傘下の映画制作プロダクション,米JAK Films社だった。pre-vizのためにスカイウォーカー農場のメイン・ハウスの3階に集められた,デジタル・アーティストの集団だ。現実の俳優が登場する場面か,コンピュータ・グラフィックスで作る部分かを問わず,目的のシーンのコンピュータ・シミュレーションを作り出し,監督のGeorge Lucasらに届ける。彼らが駆使したのが,カナダAlias Systems Corp.の3次元アニメーション・ソフトウエア「Maya」である。

Main House at Skywalker Ranch
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 Lucasfilm社は,pre-vizのアーティストたちに,シーンの撮影前だけでなく編集の初期段階でも協力を求めた。青色や緑色の背景の前で撮影した俳優の演技と組み合わせる,コンピュータ・グラフィックスの背景を作る際に,シーン全体のシミュレーションを作るように要求した。それを見てGeorgeが,ILM社が作る最終的なシーンに,変更がないかどうかを決めるわけである。

 当時JAK Films社のPre-Visual SupervisorだったDan Gregoire―現在は米Halon Entertainment社のCEOを務める―によれば,Georgeらがpre-vizに求める品質は,ポスト・プロダクション前の映像に近いといえるほど高く,Danらが当時主に使っていた米Intel Corp.のマイクロプロセサを用いたワークステーションに大きな負荷をかけた。

 2001年の秋,新しいシステムの導入を決めたDanは,Lucasfilm社が技術を扱う手腕を地で行く行動に出た。AMD社とIntel社に,それぞれ電子メールで問い合わせたのである。「僕らには,今後の完全な技術ロードマップが必要だった。主導権を握っているのはチップ・メーカーだったから,彼らと直接話すのがいいと思ったんだ」(Dan)。Danによると,このうち返事が返ってきたのはAMD社だけだったという。