【前回より続く】

Digital Can’t Crank

 24フレーム/秒で撮影できるHDビデオ・カメラを強く望んだLucasfilm社のこだわりとは裏腹に,F900は特定のフレーム速度でしか撮影ができないことが,ポスト・プロダクション工程に問題を残した。映画では,爆発や衝突などのシーンで,24フレーム/秒よりも速い速度で撮影することがある。上映時にシーンをスローモーションで見せて観客に与える効果を高める,「早回し」と呼ぶ手法である。24フレーム/秒よりもゆっくり撮影する「遅回し」という手法もある。

 F900はフレーム速度を,プログレッシブ方式の場合は23.98/24/25/29.97/30フレーム/秒,インタレース方式の場合は50/59.94/60フレーム/秒の中から選べる。ただし,これ以外の速度で撮影することはできず,同様な効果を得るには,ポスト・プロダクション工程で作り込むしかなかった。インタレース方式で高速で撮影すると,解像度が減る問題もあった。

 Fredによれば,フレーム速度を変えた撮影が必要なシーンは,実際には限られていた。ILM社が取った手の1つは,過去に撮影した膨大な映像のライブラリから爆発などのシーンを選び出し再利用することだった。煙や散らばる破片を,コンピュータ・グラフィックスで作り出す手法も使った。ソフトウエア・ツールを利用して,撮影していないフレームを合成する手段も取ったという。

Melting Models

 F900を使うことからくる問題の多くを,Fredが率いるILM社のチームはあらかじめ予期していた。それでも,彼らは厄介な問題の不意打ちを食らった。この問題も,24フレーム/秒の速度に起因していた。

 発端は,エピソード2の制作開始以前にさかのぼる。ソニーがF900で採用した2/3インチ型のCCDが,そもそもの始まりだった。このCCDを使うと,35mmフィルムのカメラよりも大きい被写界深度を得ることができる。「これはミニチュアの模型の撮影時に威力を発揮する特性だった。模型を以前よりもっと小さくすることができるんだ」(Fred)。実際,Lucasfilm社は,コストを削減するために,スペースシップや建物の模型の寸法を縮めることを決めた。

 Lucasfilm社を喜ばせたこの決定がくせものだった。模型の撮影が始まると,すぐに問題が浮上した。模型の撮影には,動作制御用の機構に据え付けたカメラを用いる。この機構は非常にゆっくりカメラを動かし,1フレームずつ撮影を進めていく。F900は24フレーム/秒で撮影するので,露光時間は1/24秒しかない。この時間で撮影するには,「それなりの光量が必要だ」(Fred)。被写界深度の深さと,それに対応する絞り値が,模型に降り注ぐ光の量をさらに増やした。その結果,「小さい模型の幾つかは,溶けてしまうか溶けかかっていた」(Fred)。この問題の根本的な解決は,次世代のカメラの開発までお預けになった。