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第4回:天才でなくともイノベーションを達成できる

小林三郎=中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ経営企画部長)
2012/07/30 00:00
出典:日経ものづくり、2012年3月号 、pp.106-112 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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――前回は、画期的な商品や、これまでにない卓越した新技術を開発するために、コンセプトがいかに重要かをうかがった。では、コンセプトはどうやってつくればよいのか。一般的な注意点はあるか。

 コンセプトは、プロジェクトの本質を簡潔な言葉で表現したものだ。そして、理屈を超えたものである。だから良いコンセプトをつくるためのマニュアルはない。

 前回紹介した5代目「シビック」のコンセプトである「サンバ」は論理的な思考の結果から導き出されたものではないし、我々が開発したエアバッグのコンセプト「技術の故障なら技術で解決できる」も論理的に正しいことを証明できない。しかし、技術の故障だから何らかの技術的な解決手段が必ずあるはずという信念を我々は持っていた。

 ホンダではこうした信念や意志、熱気、ワクワクした気持ち、カオスなどが融合したものを“想い”と呼んでいる。Steve Jobsがこだわった“情熱”と、ほとんど同じ意味だと思う。想いや情熱を持った人間と、上司からの指示を単に効率的にこなすだけの人間がイノベーションに挑戦した場合、どちらの成功率が高いかは火を見るより明らかだろう。

もっと面白くもっとユニークに

日本初のエアバッグを開発した小林三郎氏(写真:栗原克己)
日本初のエアバッグを開発した小林三郎氏(写真:栗原克己)

――コンセプトは天才がひらめくもののように思えてきた。

 センスは必要だが、天才である必要はない。普通の人間がコンセプトを練り上げていくためのホンダのやり方は後で話すが、その前に我々日本人の弱点を指摘しておきたい。弱みを知っておけば対策が採れるからだ。我々の弱みとは、コンセプトの重要な要件であるユニークさに、疎いということだ。

 以前、「つつましやか」を英語にしたいと思ったことがあった。電子辞書で調べたら「small」と出てきた。英語にはつつましやかに当たる言葉がないのだ。これとは逆に、大和言葉にはユニークに当たる言葉がない。普通に考えると「変わった」になるが、変わったにはややマイナスのニュアンスがある。ユニークには他と違っていることは素晴らしいというプラスのイメージがあるので、「変わった」では不十分。より正確さを期すなら「比類なき」だろうが、漢語調であり大和言葉ではない。大和言葉は、古来から使われてきた言葉なので我々の世界観や価値観に寄り添っている。その大和言葉にユニークに当たる言葉がないということは、我々がユニークという概念に疎いことを示している。かなり意図的にしないとユニークな視点は得られないのだ。

――ユニークさに関する我々の弱点はどう克服すればよいのか。

 具体的な対策を採るというよりも習慣の問題だ。例えば、俺が若かった頃、本田技術研究所には変わった習慣があった。課長クラスが若手を飲みに連れていった際、「最近街で見つけた面白い話はないか」と必ず聞くのだ。その時につまらないことしか言えないと、だんだん誘いが減る。特上すしや天ぷら、時にはうなぎを逃すものかと、面白いことを懸命に探していた。

――面白いことを探すとどんなメリットがあるのか。

 真剣になって探していると、面白いことに関して感度が高まってくる。そして、面白さを見抜く力が付いてくる。ここでいう面白さは、ユニークにかなり重なるものだ。

 後で分かったのだが、この習慣が生まれたのもおやじ、すなわちホンダ創業者の本田宗一郎の影響だった。おやじが役員と食事に行って、「おい、最近、街で見つけた面白い話はないか」と聞く。それで、今度は役員が主任研究員やマネジャーと食事に行って「おい、面白い話はないか」と尋ねるのだ。だから、研究所の全員が面白いことを探していた。

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