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第1回:忍び寄るイノベーションの危機

小林三郎=中央大学 大学院 戦略経営研究科 客員教授(元・ホンダ経営企画部長)
2012/07/02 00:00
出典:日経ものづくり、2012年3月号 、pp.106-112 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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――今の開発の現場をどうみているか。イノベーションを巻き起こす熱気はあるのか。

 まるでダメだ。多くの企業の若手と話してみるとよく分かる。口をそろえて「最近、ウチの会社からは新しいものが全然出てこない」と言う。創造的な商品や技術に失敗を恐れず挑戦するという文化を、もう1度取り戻さなければならない。それができなければ衰退の一途をたどる。新しいことをやる気概をなくしたら企業も国も滅びるだけだ。

――何が原因なのか。

 経営の責任が大きい。日本が戦後、急成長したのはみんなで頑張って新しいことをやったからだ。日本企業の強みは、品質とコストとよく指摘されるが、それだけじゃない。ホンダだってCVCC(複合過流調速燃焼)エンジンから始まってVTEC(可変バルブタイミング・リフト電子制御システム)、エアバッグ、「フィット」の燃料タンクのセンターレイアウト、「アシモ」や「ホンダジェット」などユニークな技術・商品を次々と送り出してきた。ソニーだってキヤノンだってそうだ。

 ところが今はどうか。それなりに良い製品は出てくる。しかしワクワクするような製品はない。

 その最大の理由は、イノベーションに対する致命的な理解不足と、その結果によるイノベーションからの撤退である。経営者の現在の最大の関心事は、新興国の市場でいかに商品を売っていくかだ。高い商品は売れないので安い商品を造れという大号令が掛かっている。技術者たちは新しい技術の開発よりも、ムダ取りや効率向上といった改善に大わらわだ。

 それが間違いだと言っているわけではない。新興国のお客様のニーズに合った商品を提供することはメーカーの務め。ただ、俺が言いたいことは「本当にそれだけでいいのか」ということだ。

新技術への挑戦は、もうやめたのか

――イノベーションの取り組みが不足しているということか。

 不足しているどころの話ではない。重要なので繰り返すが、企業の業務は、オペレーション(執行)とイノベーション(創造)に分かれる()。オペレーションは、データの分析と論理的思考によって綿密な計画を立て、計画通りに進めることが求められる。加えて100%の成功を目指すものだ。結果的には成功率は95~98%だが、本来失敗は許されない。例えば、クルマのモデルチェンジや生産工程の刷新、新興国市場の開拓などが典型例である。オペレーションは業務の95%程度を占め、今日と明日の利益に直結する。

 一方、イノベーションは全く新しい商品や技術をゼロから開発することである。これは業務全体の5%程度だ。誰もやったことがないので、当然ながらデータはない。そのため分析や論理は役に立たない。そして9割以上は失敗する。しかし、成功した1割弱の中から将来に向けた成長の種が生まれてくる。

表●オペレーションとイノベーションの違い
表●オペレーションとイノベーションの違い

――今、商品や技術の開発の現場で何が起こっているのか。

 会社という組織は利益を上げた人を評価するので、短期間で利益を上げられるオペレーション出身者が役員の大半を占めている。すると、成功率100%が判断基準になるので、成功率10%以下のイノベーション分野の技術開発は「効率が悪いからやめろ」と判断されて中止になる。日本企業全体で収支に余裕がなくなっているので、真っ先に切られてしまうのだ。

 オペレーションとイノベーションは本質的には別物だが、オペレーションの中にイノベーション的な要素もあり、イノベーションの中にもオペレーション的な要素がある。そのため、オペレーション出身の役員は、イノベーションを十分理解していると思い込んでいるケースが多い。

 その結果、「効率が悪いからやめる」という自分の判断が正しいと確信して開発中止を言いわたすのである。イノベーションに取り組む技術者はこうした状況を理解しておいた方がよい。そして、イノベーションとオペレーションでは成功率が大きく違い、アプローチも全く異なることを、反対する人たちに気付かせなければならない。

 業績が悪化したときに、イノベーションに投入する経営資源を3%くらいに下げるのは仕方ない。しかし、ゼロにしては絶対にいけない。1度イノベーショが途絶えると復活させることはとても難しいからだ。しかし今、多くの企業を見ていると、イノベーションに投入している経営資源はほとんどゼロに等しい。これでは画期的な製品は生まれない。

(聞き手は日経ものづくり副編集長 高田憲一)

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