図1 torneに付属するUSB接続の小型地デジ・チューナー
図1 torneに付属するUSB接続の小型地デジ・チューナー
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図2 地デジ・チューナーをUSB経由でPS3に接続して利用torneは,小型地デジ・チューナーをUSB経由でPS3本体に接続して利用する。地デジの視聴や内蔵/外付けHDDへの録画が可能になるほか,PSPシリーズ経由で操作や視聴ができたり,PSPに録画済み番組を転送して持ち運べたりする。
図2 地デジ・チューナーをUSB経由でPS3に接続して利用torneは,小型地デジ・チューナーをUSB経由でPS3本体に接続して利用する。地デジの視聴や内蔵/外付けHDDへの録画が可能になるほか,PSPシリーズ経由で操作や視聴ができたり,PSPに録画済み番組を転送して持ち運べたりする。
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図3 ゲームの操作感を地デジの視聴に持ち込むカラフルな番組表は超高速で拡大/縮小でき,スクロールも速い(a)。番組リストでは抽出項目を選んだ瞬間に,リストが更新される(b)。 (a)カラフルな番組表 (b)抽出結果を一瞬で表示
図3 ゲームの操作感を地デジの視聴に持ち込むカラフルな番組表は超高速で拡大/縮小でき,スクロールも速い(a)。番組リストでは抽出項目を選んだ瞬間に,リストが更新される(b)。 (a)カラフルな番組表 (b)抽出結果を一瞬で表示
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図4 待ち時間を感じさせないチャンネル切り替え時にどうしても生じる待ち時間で,ユーザーがストレスを感じないように,切り替え時にほんの一瞬,番組タイトルなどを表示する。
図4 待ち時間を感じさせないチャンネル切り替え時にどうしても生じる待ち時間で,ユーザーがストレスを感じないように,切り替え時にほんの一瞬,番組タイトルなどを表示する。
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出典:日経エレクトロニクス,2010年2月10日号, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります。肩書きも当時のものです)

 「こんなに面白いものが出来上がるとは思わなかった」─。「torne」(トルネ)の開発を担当したソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE) 商品企画部 2課 課長の渋谷清人氏は声を弾ませる。

 torneは,SCEが2010年3月に9980円で発売を予定する「プレイステーション 3」(PS3)向けの地上デジタル放送の視聴・録画キットである(図1、2)。USB接続の小型地デジ・チューナーと,PS3で動作する視聴・録画ソフトウエアから成る。torneをインストールすると,PS3で地デジ番組の視聴や,内蔵や外付けのHDDへの録画と再生が可能になる。録画した番組を同社の携帯型ゲーム機「PSP」シリーズに転送して持ち出したり,無線LANで接続したPSPを使って離れた場所から操作したりできる。

ストレスを感じさせない操作感

 torneのセールスポイントは,PS3の強力な演算処理と描画の能力を生かした「気持ちいい操作感」(渋谷氏)である(図3)。例えば,カラフルな番組表は,全9チャンネル,丸1日分を表示した状態からほぼ一瞬でズームし,個別の番組の詳細データを表示できる。縦横のスクロールは目にも留まらないくらい速い。番組一覧や録画済み番組一覧を,ジャンルや日付,キーワードで抽出すると,一覧表がその都度,一瞬で書き換わる。こうした操作を,PS3の無線コントローラから,少ないボタン操作で行える。SCEが自画自賛する通り,テレビの視聴や録画予約の操作という点ではこれまでと異次元の快適さである。

 こうした操作感の実現に大きく寄与したのが,torneで採った開発体制である。「PS3だから実現できる地デジ・チューナーを作りたいと考えた。あえて機能は絞り,ゲームのノウハウを導入することで,地デジ視聴や録画そのものをユーザーが楽しめるエンターテインメントにすることを目指した」(渋谷氏)。

 こうした考えに基づき,PS3向けBlu-ray Disc再生ソフトウエアなどを手掛けた開発陣(同社 ソフトウエアプラットフォーム開発部 2課 1グループの石塚健作氏ら)と,ゲーム開発陣(同社のゲーム開発部門であるJAPANスタジオ制作部 ゲームデザイナーの西沢学氏ら)が,共同作業する開発体制が組まれた。

 当初は「超高速で番組表を表示できるだけで,価値は生まれると思っていた」と石塚氏は話す。だが,西沢氏らの持つノウハウやアイデアを加えて,機能のそれぞれを細部にわたってチューニングすることで,単に速いだけではなく,操作自体が楽しくなるレベルまで洗練させることができた。結果として,当初の想定以上の製品が出来上がったという。

 例えば,torneはチャンネル切り替え時に一瞬,これから表示する番組タイトルを表示する(図4)。これは,地デジのチャンネル切り替え時にどうしても生じる待ち時間を,ユーザーに感じさせない工夫だ。特に,torneは外付けチューナーを使うため,「チューナーを内蔵する場合に比べて待ち時間が長いという課題があった」(石塚氏)。

 石塚氏らは,この待ち時間でユーザーがストレスを感じないように,いくつものアイデアを試した。「最終的には,番組タイトルをパッと表示し,じわりと消えるようにした。このタイミングも,何種類ものパターンを試して決めた」(石塚氏)。このような課題を解決するに当たり,いくつかあるアイデアの選択やパラメータを決定する際には,西沢氏が持ち込んだ「アプリケーション全体で世界観を統一する」というゲーム開発の考え方が非常に役立ったという。

新たな製品評価軸が生まれる

 現在のテレビや録画機に搭載されている番組表や録画予約などの操作感は,残念ながら快適とは言えないレベルにある。コストの制約などから,搭載するプロセサの処理能力などに限界があるためで,これまでは「仕方がない」とされてきた。torneの登場で,この「常識」が変わる可能性が出てきた。今後は,機能の良しあしに加えて,操作の快適さという評価軸が加わるかも知れない。

 もう一つ,家電のユーザー・インタフェースの改善という観点で,ゲーム開発者の持つノウハウが注目されそうだ。「ゲームに学べ」という意見はこれまでにもあったが,多くは掛け声倒れに終わっていた。torneが成功すれば,こうした状況も一変する可能性が高い。