出典:日経エレクトロニクス,2011年11月28日号, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)
九州・福岡市は国内有数のゲーム産業の拠点である。「ドラゴンクエストVIII/IX」や「レイトン教授シリーズ」など、数々のヒット作を手掛けたレベルファイブや、累計270万本を出荷した「.hack」シリーズなどを開発したサイバーコネクトツーなど、有名ゲーム会社が本社を構える。福岡市もゲーム産業振興に注力しており、さまざまな活動を進めている。九州大学が中心の「シリアスゲームプロジェクト」もその一環だ。シリアスゲームとは、医療や教育、環境破壊といった社会問題などの解決を目的としたゲームを指す。
Wiiの周辺機器を活用
九州大学 大学院 講師の松隈浩之氏らが現在取り組んでいるのは、リハビリ機器に向けた専用ゲーム・ソフトの開発である。その目的は、単純で退屈になりがちなリハビリ運動を楽しく継続的に行えるようにすること。同氏らが開発した「樹立の森 リハビリウム」は、起立・着席を繰り返す「立ち座り運動」に向けたもので、Wiiの周辺機器「バランスWiiボード」をパソコンと接続して運動の回数をカウントする(図10)。回数が増えるほど木が育って花が咲くなど、成果を可視化することで運動する意欲を高めている。
実際に医療施設やリハビリ施設において、導入時の成果が確認されている。例えば立ち座り運動を1.患者1人で行う、2.セラピストと一緒に行う、3.樹立の森 リハビリウムを使い1人で行う、という場合で繰り返してもらったところ、2と3の回数はほぼ同じで、いずれも1を上回った。安全性に関しても、運動後の血圧値に異常は見られなかったという。
リハビリ運動はきついため、一般にセラピストがそばにいる方が効果は高まる。だが、人件費の問題から多くのセラピストは雇えない。樹立の森 リハビリウムは、こうした課題を解決する糸口になり得るわけだ。
リハビリ運動への参加を促す効果もあった。失語症からコミュニケーションを取りにくく、グループ・セラピーにあまり参加しない女性が、同ゲームでは積極的に参加するようになったという。
Kinectの利用も視野に
一定の成果を得た樹立の森 リハビリウムだったが、開始するまでのセットアップが面倒という課題があった。これではリハビリに参加する高齢者だけでなく、セラピストも敬遠しがちになってしまう。
そこで続編の「リハビリウム2」では、ゲームを常に起動させた状態にし、バーコード・リーダーにタグをかざすだけで個人を認識して、すぐにゲームを始められるようにした。さらに、ゲームに不慣れな高齢者向けに、自然な演出を意識して絵本のようなストーリー性を入れた。
具体的には、女の子のキャラクターが自宅を出発し、木の育成場所に移動。その後、立ち座り運動を繰り返して木を育てる。立ち上がり方や座り方に応じて、木に実がなる。最後は、その実を回収して帰宅する、といった具合だ。
こうした一連の作業を繰り返すことで、家が豪華になったり、実を目当てにたくさんの動物たちが集まったりする。その成果は一目で分かるので、周囲の人々が関心を持ち、さらにリハビリ運動を積極的にするようになる。リハビリウム2を使った実証実験は、2011年11月から開始された。
今後はハードウエアの改善も図る。現状では、高齢者がリハビリ運動時にバランスWiiボードにつまずく恐れがある。そこで、道具を使わず体の動きだけで操作できる米Microsoft社のジェスチャー入力コントローラ「Kinect for Xbox 360」の利用を検討中である。