グローバル展開は先進国中心だが、アジアの動きには目を光らせる

――グローバル展開についてですが、特にアジア圏に対する動きについてはどのように見ていますか。

田中氏:現在、海外のグローバルビジネスにおいては、欧米といった先進国が中心になります。これは単純に一人当たりのGDPが高いからです。しかし、世の中で何かと注目されているのは、新興国の急激な経済成長ですよね。

 今のところビジネスのウエートは先進国に置いていますが、3年後、5年後は大きく変わってくるでしょう。特に我々は日本に本社があるので、アジア圏の成長に目を光らせ、うまく事業に取り込むことは重要です。ですからアジア圏には中国、韓国、シンガポールの3拠点を設けました。間もなく「GREE」のグローバルプラットフォームが整うので、そうなれば同じインターフェースでアジア圏のユーザーもゲームを楽しめるようになります。

――海外については、サービスの市場という見方だけでなく、ゲーム自体の開発拠点という見方もありますが。

「ベトナムやシンガポールでも開発を進めている」と話す田中氏

田中氏:確かに、国際間で分業するゲーム開発体制に移りつつあると思います。既にアニメや家庭用ゲーム機ではそうした取り組みは当たり前ですから、我々にとっては課題の1つと言えます。

 ただ、ソーシャルゲームやオンラインゲームを作れる国として考えた場合、どの国でもいいのかというとそうではありません。例えばインドは確かにエンジニアが多いのですが、主にSI(システムインテグレーション)だったり、ビジネスプロセッシングの外注先だったりして、ゲームに強いエンジニアがたくさんいるわけではありません。

 その点、韓国や中国はオンラインゲームを手がけてきたエンジニアも数多くいるので、開発拠点として成立します。そのほか、ベトナムやシンガポールでもゲームの開発を進めつつあります。しかし、いずれはインドにも開発拠点を作ろうとは考えています。

――今後、海外のスタジオでゲームを作る機会も増えてくると思いますが、そこで生み出されるゲームはそのエリアだけで遊べるのか、それともグローバルプラットフォームでも遊べるのですか。

田中氏:両方です。日本における映画や音楽を例に考えてもらえれば分かると思いますが、日本で洋楽や洋画と言われるものは、基本的にグローバルコンテンツです。では邦楽や邦画はどうかというと、明らかに日本向けのものもありますが、海外に向けたものもあります。

 つまり、コンテンツというのは日本向けと海外向けが両立しているのです。ゲームについてもきっとそうで、日本でしか通用しないものを作ることが決して悪いことではありません。なので日本以外のスタジオで作る場合も、その国を主に狙ったものと、グローバルを意識したものの両方を念頭に置いて進めます。

そもそも、日本だってこの5年で劇的に変化した

――海外をサービスの市場として見た場合ですが、海外のユーザーは日本に比べて課金のあるゲームに、あまりお金を使わないという声もあります。グローバルプラットフォームになった場合、この点で何か影響が出たりしませんか。

田中氏:中長期的にどう考えるかが一番大事です。世界各国のユーザーの利用動向は、次第に1人当たりのGDPに近似していくだろうと考えています。ですから、今のような日本だけが突出しているような状況が、この先もずっと続くことはないと思います。

 日本は通信環境がいいですし、パケット代が固定の料金設定もあります。しかもゲームの課金について簡便な方法が整っているなど、いろいろな意味でユーザーは恵まれています。しかし、ゲームは世界中で遊ばれているものですし、オンラインゲームだって世界のユーザーが楽しんでいます。課金があったとしても、ソーシャルゲームだけが日本以外では遊んでもらえないということはあり得ないでしょう。

――とはいえ、今のところ日本以外の展望がよく見えません。その強気の発言の根拠はどこにあるのですか。

田中氏:そもそも日本におけるARPU(1契約者当たりの売り上げ)だって、この5年くらいで劇的に変わりました。今の段階では、日本以外の国でもソーシャルゲームの売り上げが大きく伸びると聞けば、それは非現実的に思えるかもしれません。しかし、将来、日本と同じことが起きる可能性を考えれば、それほど非現実的ではないでしょう。

 日本のソーシャルゲームのユーザー数にしてみても、4年前は100万ユーザーとか150万ユーザーのサービスでした。それが今では「GREE」だけで3000万ユーザーです。仮にインドネシアのユーザーが今50万だったとして、これが3年後に3000万ユーザーに増えたとしても別におかしくはありません。むしろ、そうなるという感覚があってしかるべきだと思います。

「ソニーやサムスンなどのコンシューマーブランドに近づけたい」と話す田中氏

――昨年1年間の活動で、海外でのグリーの認知度は上がってきているのですか。

田中氏:インターネットやモバイルSNS業界においては、日本にグリーという会社があって、成功している企業の1つであることは認知されつつあります。ただ、多くの人たちが日本以外の国でうまくいくのかなと疑問視していることは事実です。これがうまくいくことを、我々は自らの手で証明したいですね。

 その際、何をもって“うまくいっている”かということですが、もちろんユーザー数や課金で得られた金額などがありますし、業界の人ならユーザーの状況を見ていればわかるでしょう。それ以外にも、グローバルで知名度の高いコンシューマーブランドという指標を、ベンチマークとしてとらえています。家電ならソニーやサムスン、ハイアールなどがありますが、そうしたブランドと同じように「GREE」が浸透するよう意識してやっていくつもりです。

家庭用ゲームとスマホ用ゲームの垣根が次第に消滅する