ソーシャルゲームの人材難は十分承知だが、惑わされずに人材育成

――最近の決算発表を見ると、人件費などの圧縮を含めてコスト圧縮するとあります。一方で、スマホやソーシャルゲーム分野などでは技術者の取り合いになっていて、人材不足という話もありますが。

襟川氏:私どもでは、新入社員採用が中核にあります。新人を社内プロジェクトに充てながら、ノウハウと人材を育てるということを32年間続けてきました。中途採用ということも一部実施していますが、基本的には新卒採用して育てていくというのがコーエーテクモの原点なのです。

 おっしゃるように、ソーシャルゲームが急速に伸びたので、人材難ということで引き抜きなどがあることは十分承知していますが、それはいつの時代にもあったことで、その中でも日本のゲーム産業は伸びてきました。ですから、そうした動きには惑わされないようにしたいです。基本は会社が魅力あるものでなければなりませんから。

 私が社長になった時点では、収益性が低かったものですから、それを高めなければなりませんでした。そのためにコストダウンを強力に図りました。その延長線上で考えると、日本企業の社員数は現状維持プラスアルファくらいがいいのではないかという漠然としたイメージを持っています。社員をどんどん入れて、大幅に社員数を増やし続けるという状況ではないですね。

 パッケージビジネスだけをみてみると、昨年はたまたまコーエーテクモゲームスの成績が良かったわけですが、全世界で考えると弱含みであることは事実です。世界経済の見通しもはっきりしない中で、積極的に人材投資を続けていくことは様子見ではないでしょうか。

 その半面、コストを抑えて、効率的に開発していくという競争を続けています。それを実現するために、中国やベトナム、シンガポールといったアジアでの開発拠点を増員し強化して、総合的なコストダウンしていくという方向性は間違っていないので、継続していきます。特に、中国とベトナムは強化していきます。

――中国の開発拠点は2つありますね。

「総合的なコストダウンの一環として、中国とベトナムスタジオの開発力を強化する」と話す襟川氏

襟川氏:ええ、北京と天津にありまして、2つ合わせると200人を超える開発部隊があります。社員のほとんどが中国人です。中国の場合は1985年から研修生を受け入れていまして、1989年から開発がスタートしています。そういう歴史がありますから、当時新卒で採用した中国人が、いまや部長になっています。

 ベトナムは法人ができて3年目になります。まだまだ若い会社で、日本から技術者を派遣して現地で研修していますし、逆に現地の優秀な人間は日本で研修を受けてもらっています。ベトナムでは、世界向けのタイトルの開発を続けています。

――アジアの開発拠点はこれから増やしていくのでしょうか。

襟川氏:開発は中国とベトナムを中心に考えています。それから東南アジアでのサービスの拠点としてはシンガポールになりそうです。政権が安定していますから、安心して投資ができます。現在は60人くらいの社員がいますが、それをもっと増やしていきたいですね。加えて、インドネシアやインドにも注目しています。

『NINJA GAIDEN3』と『DEAD OR ALIVE5』をミリオンタイトルに

――最近、ゲーム会社のガストを買収しましたが、その狙いは何でしょうか。

襟川氏:ガストは、強固なユーザー基盤を持っています。しかし、イベントやメディアミックスなどの関連ビジネスは忙しすぎて手が回らなかったので、その部分を強化していきたいと思っています。

 ガストは年間の売上高が13億円くらいですが、営業利益は5億円も出ています。とても利益率の良い経営をされていました。ただ、従業員数が30人くらいの規模の会社なので、あれもこれもビジネス展開しにくい状況だったのだと思います。そこはコーエーテクモゲームス側のリソースを使えば、大きなプラスアルファの売り上げにつながると思っています。

――では、ガストのタイトルをソーシャルゲームに仕立てていくこともあるのでしょうか。

襟川氏:そうですね。ガストの作品の中に、『アトリエ』シリーズというものがありますが、このシリーズはソーシャルゲームにしていきたいですね。よくあるカードバトル系、ロワイヤル系とも違うタイプのゲームになると思いますが、非常にソーシャルに向いていると思いますよ。

――では最後に、2012年の目標をお聞かせください。

「ガストの作品はソーシャルゲームに向いている」と話す襟川氏

襟川氏:新作の『NINJA GAIDEN 3』が出ましたが、全世界でミリオンタイトルにしたいです。テクモのタイトルではもう一つ、2012年度の上半期に『DEAD OR ALIVE 5』が出ます。これもワールドワイドで人気があるタイトルなので、ミリオンタイトルにしたいというのが当面の目標です。

 北米のゲームメーカーが出しているFPS系のタイトルは大ヒットしていますが、それと似たようなゲームタイトルで、チャレンジしようとは思っていません。日本のゲームメーカーならでは独自性を出して、世界のユーザーに面白いと思ってもらえるようなチャレンジを続けていきます。『仁王』も鋭意開発中です(笑)。ぜひご期待ください。

――ありがとうございました。

『DEAD OR ALIVE 5』
【価格】未定、【プラットフォーム】PS3/Xbox360、【発売日】2012年9月発売予定、(C)コーエーテクモゲームス Team NINJA All rights reserved.
この記事は日経トレンディネットから転載したものです。