「良質なコンテンツを作る」本質は決して変わらない

――これだけ厳しい日本の経済状況にあって、カプコンだけでなく、ゲーム業界全体として見ても非常に前向きに、明るい展望を抱かれていますね。

辻本氏:確かに少し前までは日本のゲーム産業はもうダメだとか言われてきましたが、現状を客観的にとらえ、それを打開するのが経営者です。これまで日本の成長産業と位置付けられてきましたが、円高やグローバル競争の問題など、非常に苦労している点が多々あります。

 しかし、ゲームソフト業界はソフト配信型のダウンロード化が進むことで、収益性を改善できるチャンスがあります。円高の影響で海外の売り上げが目減りするかもしれませんが、物を作るための製造原価が上がるといったことはありません。

 むしろ円高を活用して海外の優秀な開発チームを起用することで、開発原価を下げることが可能かもしれない。販売地域も、アジア、南米、ロシアなど、どんどん広がる可能性があり、販売方法もネット配信ですぐに対応できなど多くの好材料があります。

 もちろんメーカーなので、ユーザーに喜んでもらう商品を作らなければいけません。これは当たり前のことで、ユーザーに必要とされなければ、企業として存在する意義はありません。

――欧州でも金融危機があり、米国も含めて経済状況は明るくありません。企業努力は必要にせよ、業界として不安要素もあるのではありませんか。

「日本のゲーム産業はもうダメと言われてきたが、それを打開するのが経営者」と話す辻本氏

辻本氏:金融危機が起こり、経済不安によって自動車や住宅などの高額な商品に手を出し辛くなるかもしれません。しかしながら、欧米の人たちの娯楽に対する欲求は高く、ゲーム自体はそれほど高価なものではないので需要は継続すると考えています。

 もちろん、今後の展開は予断を許しませんが、今のところ、欧州の映画興行収入がギリシャの経済不安によって、大幅に落ち込んだという話は聞いていません。他産業の経営者の方々はダウンスパイラルという考え方を念頭に置くことで、現状の不安要素について納得されているのかもしれませんが、現段階であまり気にしても始まらないと思っています。

 ゲームソフトメーカーの本質は「良質なゲームコンテンツを作る」ということに、何も変わりません。それに注力できるように、周囲の環境が改善されています。配信型ビジネスが増えることで収益構造が変わるだろうと考えています。コストの圧縮により原価率が下がり、利益幅も増加し、それを投資に充てるなど、さらにビジネスの拡大も可能になるでしょう。

 また、ネットワークを介してユーザーとダイレクトにつながることで、ゲームの評価や反応が直接伝わり、コンテンツの改善、販売・マーケティングにおける対応も好転する。つまり、より良いゲームを作れる環境が整うわけです。

やるべきテーマが多いのは、大きな変化を起こせる時

――2012年は映画を3本、公開されます。こうした映像展開についてはいかがですか。

辻本氏:2月に公開した実写映画『逆転裁判』とハリウッド映画『バイオハザードV リトリビューション』(2012年9月14日日本公開予定)、そしてCG長編アニメーション『バイオハザード ダムネーション』です。さらに『デビル メイ クライ』の映画化も発表しています。

 カプコンのビジネスモデルにおける大きな利点は、“ワンコンテンツ・マルチユース”に基づくゲームコンテンツのブランド価値向上にあります。これまでは1本ゲームを作ったら、約2年間は次のタイトルが出ませんでした。そこで、次回作が出るまでの間、映画公開やグッズ販売、イベントの開催など、ゲーム以外のメディアで多面展開することでブランド価値を維持したいという考えです。

「日本のゲームも、まだまだいけるじゃないか、と感じてもらいたい」と意気込みを語る辻本氏

 例えば『逆転裁判』のゲームは『逆転裁判4』以降、ナンバリングタイトルをリリースしていません。しかし、その鮮度は落ちていません。『バイオハザード』も同様に、2009年3月に『バイオハザード5』を発売してから3年以上経った今なお『バイオハザード5 オルタナティブ エディション』が売れ続けています。

 その理由はミラ・ジョヴォヴィッチさんが登場する映画が世界のいたる場所で上映されていることや、レンタルDVDの存在のお陰です。つまり、いかにユーザーの目に触れる機会を増やすかが重要なのです。『戦国BASARA』ではプロデューサーが幅広いイベントを仕掛けています。地方自治体がゲームのキャラクターを活用することで、町おこしなど地域振興の一助となっています。

 こうした努力があるからこそ、カプコンのゲームは違うと評価され、そのブランド力を維持し続けることができていると実感しています。

――映画作品について、カプコンは制作費を出資しているのですか。

辻本氏:『逆転裁判』など、一部の作品に出資しています。出資することにより映画制作のノウハウを自社に蓄積すること、逆に映画制作者がゲームの作り方やマーケティングを学ぶなど、ノウハウの共有が狙いです。

――では最後に、2012年にカプコンとしてクリアしたい課題などがあれば教えてください。

辻本氏:もう、それはたくさんあります(笑)。映画もヒットさせたいですし、新作の『ドラゴンズドグマ』や『バイオハザード6』といった大型タイトルを、グローバルで大ヒットさせたい。

 日本のゲーム会社でも、海外の大作と肩を並べるような“トリプルA”のタイトルを作ることができるという、熱い思いで取り組んでいますからね。それによって、日本のゲーム業界に「カプコンができるなら、自分たちだってできる」と思ってほしいですし、ユーザー自身やアジアに対しても「日本のゲームも、まだまだいけるじゃないか」と感じてもらいたい。そう考えると、やるべきことはまだたくさんあります。

 企業としてクリアしたいテーマが多い時期というのは、大きな変化を起こせるチャンスでもあります。課題を理解しながら戦略を立て、着実に成果を上げていくことが重要な年となるでしょう。

――ありがとうございました。

映画『逆転裁判』
制作:日本テレビ放送網株式会社、配給:東宝株式会社、監督:三池崇史、公開日:2012年2月11日、(C)2012 CAPCOM/「逆転裁判」製作委員会
この記事は日経トレンディネットから転載したものです。