ネットによる情報共有でユーザーニーズも世界中で均質化

――グローバルを意識した『ドラゴンズドグマ』ですが、日本市場では受け入れられるのでしょうか。

辻本氏:日本のユーザーにとって海外向けや日本向けなどの区別はもはや無くなっていると思います。米アクティビジョン・ブリザードの『コール オブ デューティ』も日本でヒットし、米ベセスダ・ソフトワークスの『ザ エルダースクロールズ V:スカイリム』も人気を博しています。

 以前のように“洋ゲー(海外のゲーム)”と区分けされ、敬遠されるようなことはありません。様々なゲームのジャンルの1つとしてユーザーは受け入れていると思っています。だからこそ、『ドラゴンズドグマ』のような、これまで当社が手がけてこなかったオープンワールドのタイトルを発売することに決めました。ありがたいことにゲーム雑誌のユーザーの期待度ランキングで1位となりました。

 日本のゲームユーザーも、これまで発売された人気タイトルへの嗜好は根強いですが、一方で世界のゲームユーザーが楽しんでいるゲームを自分たちも遊びたい、という気持ちが高まってきているのでしょう。

――ユーザーのニーズもグローバル化というか、世界共通になりつつあるのでしょうか。

「日本のゲームユーザーも、世界のゲームユーザーが楽しんでいるゲームを遊びたい、という気持ちが高まってきている」と分析する辻本氏

辻本氏:確かにインターネットの普及で情報がスムーズに流れるようになって、グローバルレベルでニーズの地域差や意識格差は薄れてきているかもしれません。ユーザー同士のコミュニティサイトもありますから、オープンワールドのゲームについても興味のあるユーザーは自分で調べて、新しい楽しみを発見しているのでしょう。

 インターネットによって、ユーザーの意識やゲームに対する理解は均質化してきていると思います。我々も海外における当社のゲームの評価や海外市場動向について、ネットで情報収集しています。

――そうなってくると、地域特性を織り込まなくて済むので、開発はかなり効率的になるのではありませんか。

辻本氏:開発が効率的だとか、楽になるというよりも、それだけ多くのユーザーの皆様に満足してもらえるゲームを開発する必要が出てくるので、開発の意識や物作りに対する考え方という面で非常に負荷がかかるかもしれません。

 ユーザーの求めるレベルも非常に高くなっていますし、競争も激しくなっています。さらに、開発に投下する資金も高額になってきています。そうなると、闇雲にゲームを作ることはできません。

 タイトル戦略を考えながら開発する必要があり、なおかつ成功の確率を上げていかなければ、ゲーム企業としての存続は難しくなるでしょう。『ドラゴンズドグマ』についても、手応えのあるヒットタイトルにしなければ、次作につなげられません。今は、市場からは良い評価を受けられるだろうという期待を抱きながら鋭意開発中です。

“キャッチ&リリース”依存から脱却し、継続サービスへ

――そうした大型ゲームに対し、ソーシャルゲームは少ないコストとスタッフで開発できるので、いろいろ実験できる市場なのではありませんか。

「ただ物を作って売るだけではなく、継続的なサービスが不可欠」とゲーム企業の変革について話す辻本氏

辻本氏:そうですね。大型タイトルをソーシャルゲーム化したのとは違った、エッジの立ったタイトルが生まれる可能性があります。資金、人数が少なくてすみ、開発期間も短く、大がかりなゲームシステムを活用する必要もありません。極端に考えると、若手クリエイターでもアイデアが面白ければチャレンジできます。

 携帯型ゲーム機も高機能になって、タイトルも大作化が進んでいる近年、ゲームソフト業界では若手に挑戦する機会をなかなか与えられませんでした。ですので、若い人たちがゼロからゲームを立案して、アイデア次第では「それ、やってみたらどう?」とチャレンジできる機会ができたのは大きなことです。

 さらに、若手社員はソーシャルゲームのある環境に既に馴染んでいる人も多いですしね。iOSの場合、App Storeにゲームを上げておけば、世界中で評価してもらえます。その書き込みを見れば、どこが評価されたのか、またダメだったのかを検証できる。そう考えるとソーシャルゲームというのは、ゲーム業界にとって人材育成の観点からも非常に有用と言えると思います。

――ソーシャルゲームでは現在、カードバトル系がはやっています。その前はロワイヤル系が人気だったりと、ゲームのライフサイクルが短い気がします。すぐに飽きられて市場が縮小する「アタリショック」のようにならないかと懸念する声もあります。

辻本氏:そういうトレンドはどの業界も同じで、ブームやヒットの波はあります。ただ、それに臆することなく、新しいものに投資を続けていかなくてはなりません。新しいコンテンツ、ゲーム、サービスを提供していくことが企業であり、これは我々の宿命です。

 人気のあるソーシャルゲームのジャンルに、手を出すこともあるでしょう。でも、それは企業として身になるものだから参入するわけで、そこで蓄積したノウハウを、他に活用するためです。

 だからソーシャルゲームについても単に収益性が高いからではなく、ソーシャルゲームでたくさんの人が遊んでいるという現象があるから取り組んでいるのです。ユーザーのニーズを常に考えながら、そこで得られたものを他のゲームに展開し、さらに多くのユーザーに支持されるゲーム作りを目指しているのです。

――ソーシャルゲームなどでは「開発原価」という考え方が変わってきていますよね。サービスを継続する費用といった、新たなコストについてはどうですか。

辻本氏:サービスを継続するコストといいますが、それができるのは「望ましいこと」じゃありませんか。

 今までは、「ある商品を2年の期間と数十億円の費用をかけて作ります、仮に、ヒットしたとしても、続編はまた2年後に…」というビジネスを繰り返してきました。しかし、ユーザーが2年間、ずっと待ち続けてくれる保証など全くありません。

 その間に別のヒット商品が出て、ユーザーがそちらに流れていくこともあります。にもかかわらず、ゲームソフトメーカーは、2年間もリスクを抱えた状態で開発投資を続けなければならなかったのです。

 しかし、例えば『モンスターハンター』を買ってくれたユーザーに対して、発売後もサービスを提供することでビジネスが継続できるなら、企業としてありがたいことです。ユーザー自身にとっても、より長くプレイを続けられるメリットがあるはずです。

 実際、『モンスターハンター』の続編はいつ出るのか、新しいモンスターを提供してください、とよく言われます。ユーザーは『モンスターハンター』で長く遊べることを望んでいるのですから、それを拒むことは企業としてナンセンスです。

 そうしたニーズに応えるため、いつ、どのようなタイミングで新しいモンスターやクエストを届けるかといったことが、これからのゲームにおける“サービス”なのです。ゲームビジネスがB to Cにより近づくなら、ただ物を作って売るだけではなく、継続的なサービスが不可欠です。ユーザーにいかに長く遊んでもらえるが、ビジネスの成功につながってくるでしょう。

 こうした継続性のあるビジネスをどう構築していくかに、企業価値が問われています。だから、ゲームソフト業界も“キャッチ&リリース”ではなく、新しいゲームビジネスの開発によって、ゲーム業界全体の価値向上が図れると思います。

「良質なコンテンツを作る」本質は決して変わらない