怖いくらい垂直に立ち上がったソーシャルゲーム

――さて、ソーシャルゲームも本格的に立ち上がってきたようですが、数字の方はどんな状況でしょう。

鵜之澤氏:グループでのソーシャルゲームの売り上げが100億円を超え、会員数は1500万人に達しました。正直、怖いくらいの事業の立ち上がりです。いろんなことをやってきましたが、ここまで垂直に一気に立ち上がった事業はないですよ。

 ディー・エヌ・エー(DeNA)さんの『怪盗ロワイヤル』(2009年10月配信開始)をソーシャルゲームの分岐点だと仮定すると、そこから2年ちょっとで、2千数百億円くらいのマーケットができたことになります。

 そこに約1年遅れで『ガンダムロワイヤル』(2010年12月配信開始)をMobageに投入し、グリーさんから『ガンダムマスターズ』(2011年10月配信開始)を投入したら、どちらも大変好調で、あっという間に、MobageとGREEに17タイトルを配信するようになっちゃった。

 それまでは、独自でソーシャルゲームをぽつぽつとやっていましたが成功とは言えませんでした。ところが、DeNAやグリーというソーシャルゲームの本家と協業させてもらったことで、ちゃんとできるようになった。「ありがとうございます」としか言いようがないですね。

「いままで関わった事業の中でも、ここまで垂直に一気に立ち上がった事業はない」と話す鵜之澤氏

――プレーヤー層は従来の家庭用ゲームのユーザー層と比べて違いはありますか。

鵜之澤氏:CESA(コンピュータエンターテインメント協会)で調査を行いましたが、ソーシャルゲームをやっている人の6割程度は家庭用ゲームも遊んでいるようです。

 ただ、家庭用ゲームの層と同じかと言われれば、そうではないように見えますね。なぜなら、ソーシャルゲームの売上規模が2千数百億円に立ち上がりましたが、家庭用ゲームの市場がその分減ったとか、半分になったということにはなってない。なので、課金ユーザー層に限って言えば、家庭用ゲームのユーザー層とは違うのかもしれないですね。

 従来の家庭用ゲームですと、例えば人気タイトルの『鉄拳』はシリーズで6作目となり、他のタイトルでも「10周年」とか、人気シリーズばかり。ゲームは進化しすぎたことで、なかなかライトユーザーが簡単にプレーできるものではなくなっちゃったのかもしれません。

 そこに、ちょっとした隙間で遊べるフィーチャーフォン用のゲームが出てきて、そしてソーシャルゲームの時代になったんじゃないかな。

 今のソーシャルゲームでは、いかにユーザーを長時間つなぎとめて楽しんでもらえるかが鍵となります。うちのグループは、映像からおもちゃ、ゲームまで幅広いエンターテインメントをそろえているので、長いレンジで楽しんでもらえる可能性を持っていると思っていますよ。

『ガンダムロワイヤル』(Mobage)
モビルスーツのパイロットとなり、「出撃」によるミッションクリアや、「闘技」におけるバトルを通じて、数百種類のモビルスーツを集めていく。(C)創通・サンライズ (C)創通・サンライズ・MBS
『ガンダムマスターズ』(GREE)
「任務」や「ガシャ」などで、リアルなモビルスーツやパイロットを手に入れて自分だけのオリジナル部隊を編成し戦うバトルRPG。(C)創通・サンライズ (C)創通・サンライズ・MBS

PCでなく携帯電話だから普及した日本のソーシャルゲーム

――DeNAやグリーから学んだことって何でしょう。

「まさか、自分たちがゲームを無料で提供するとは考えもしなかった」と話す鵜之澤氏

鵜之澤氏:彼らはIT業界の人たち。ウェブのビジネスやマーケティングの手法を使う人たちです。アミューズメント施設から始まった僕らの業界とはまったく違いますよね。ある意味、ゲーム業界にとっては革命でした。まさか、自分たちがゲームを無料で提供するとは考えもしなかった。

 でも、その手法を知らなかったかと言われれば、そうではないんですよね。韓国をはじめとしたアジアで、PCオンラインゲームが月額課金モデルから、基本無料でアイテム課金で稼ぐ形にビジネスモデルが変わるのを見ていたわけです。

 それが、米国に渡って、Facebookのようなソーシャルメディアでのゲームアプリにつながった。それをDeNAやグリーが見つけてソーシャルゲームとして日本で普及させた。なので、ぐるっとアジアからアメリカ経由で回ってきた感じですよね。

――日本ではPCオンラインゲームはコアな層では定着しましたが、ライト層への広がりは出ませんでした。一方でソーシャルゲームがここまで広がったのは、携帯電話をプラットフォームにした影響が大きいでしょうか。

鵜之澤氏:フィーチャーフォンの時代でも、iモードのようなビジネスが普及したのは日本だけだと思います。例えば音楽配信でも、アメリカではPC向けのiTunesが一気に「アメリカで一番大きいCDショップ」になりましたが、日本では一桁も二桁も小さい市場に留まっています。かたや、携帯電話向けの「着うたフル」は数百億円の市場規模になるという、まさにガラパゴス。

 課金方法も、日本では携帯電話料金と一緒に請求できる仕組みをいち早く持って定着しました。そのことが現在のソーシャルゲームで、日本でのARPU(1ユーザーあたりの売上高)を押し上げていることにつながっていると思います。

 これがアジアにどのように影響していくのか興味深いですね。

――国内のソーシャルゲームのユーザー数も、そろそろ飽和状態と指摘する声もあります。MobageやGREE以外のプラットフォーム、例えばFacebookへの展開は考えていますか。

鵜之澤氏:今後の課題ですが、PCの世界は、今まで日本で大きなビジネスになったことがないので、海外と同様の成功は難しいだろうと思います。これまでもPCブラウザゲームをいくつかやってきましたが、そこから上がる利益は多くはありません。国内でPCベースのサービスが百億円規模に成長するにはもう少し時間がかかると考えています。

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