拡大するゲームビジネスの全体像を表す指標を創出する必要がある

――デジタルの収益モデルも形になってきたということでしょうか。

和田氏:そうですね。現在提供されているゲームタイトルの多くが、デジタル化を意識したコンテンツの設計になっています。ということは、開発がスタートした2年くらい前から、各社とも取り組み始めたということです。

 日本以外のアジア地域全体で見ると、もともとフィジカルなパッケージ販売は海賊版問題などがあり、ビジネスが難しい地域でした。だから、デジタルがビジネスの基盤となっているわけです。そうしたことから、アジア圏のゲーム会社には、デジタルが伸びているという指標がないのです。ゲームビジネス=デジタル、だからです。

 こういう状況を見ますと、日本のゲーム産業だけではなく、世界中で、次の時代に何をしなければならないかという覚悟を決められたのが、2011年だったのだと思います。

――メディアでは、ダウンロード販売の売上指標などがないために、この成長の実態をうまく表現できていません。デジタル化という実態を追わないと、“正しいゲーム市場”は見えませんね。

和田氏:確かに、家庭用ゲーム機で動いているパッケージゲームソフトで、国内に限定して、かつ販売本数ベース、ダウンロード販売や中古販売を除外する、という超限定した指標で見たら、横ばいか、少し下回っているという、メディアの指摘は正しいかもしれません。

 しかし、それは本当にゲーム市場なのか、といったら、もはや全体を表していませんよね。そういう意味では、ゲーム市場というものを改めて定義しなおさなければなりません。

 ゲームのプラットフォームがネットワークになると私が言い始めたのは、5年くらい前になります。そのときに、ゲーム市場の数字はどうやって統計データになるの? ということを問いかけても、当時は「何を言っているんだ?」という雰囲気でした。しかし、現在の状況は変わりました。

 残念ながら現状では「デジタル」の数字は追いきれません。ダウンロード販売やソーシャルの売り上げの開示のルールが決まっていないからです。また、こんなケースも考えられます。例えば、パッケージソフトが100万本売れたとして、そのパッケージの一部は、中古市場でも出回り始めます。従来なら、パブリッシャーは売れた100万本しか、売り上げが見えませんでした。

 しかし、中古市場で買ったユーザーがもし100万人いれば、合わせて200万人が実際に遊んでくれたことになります。追加のダウンロードコンテンツを購入してくれる範囲が、倍の200万人になるわけです。そのうちの何%かが、実際にダウンロードコンテンツを買ってくれるのかという話は別ですが、そもそもの市場のベースが違っているわけです。

 オンラインゲームのビジネスは、同時アクセス数を見るのか、課金額を見るのか、課金者数を見るのか、遊んだことがあるという累積会員数を見るのか、その指標の共通認識がハッキリしていません。なので、なかなか実態を把握しにくくなっているのだと思います。

――CESAとして、ディスクの販売本数ではない指標を、対外的に指し示すべきなのでしょうか。

ダウンロード型のコンテンツ販売の場合、市場規模を推定するための情報が乏しく、市場規模全体を表しにくくなってきたと話す和田氏

和田氏:確かにそう思います。しかし、そのためには時間とコストがかかります。家庭用ゲーム機タイトルの販売本数は、特定のチャネルにヒアリングすればその数字が見えてきました。

 しかし、ダウンロードコンテンツ販売となると、それをゲームコンソールメーカーに聞くわけにもいかず、個別のパブリッシャーにヒアリングしなければならなくなります。しかも、きちんと情報を収集できるかどうかも分からない。

 ヒアリング結果を分析し、売り上げの推定を作るためのノウハウがかなり必要にあります。そのコストが発生するという問題が起きます。さらに、ユーザーに安心して遊んでもらったり、優秀なクリエーターが入ってきてくれるという良い循環を作るために、各社が発表していない経営情報をディスクローズしてくれ、という交渉から始めないといけません。これにも時間がかかると思います。

ネットワーク対応になってユーザーの姿が見えてきた