「デジタル」という流通の枠組みがビジネスを広げる

――なぜ、迷いがあったのでしょうか。

和田氏:日本のゲーム業界がソーシャルゲームなどの新領域に踏み込めなかったのは、ソーシャルゲームは一過性ではないかと思っていたり、すぐに限界がくると考えていたりと、かなり特殊なマーケットとしてとらえていた企業が多かったわけです。

 ところがそうではなかった。具体的に言うと、ちゃんとしたゲームを楽しみたいというユーザーがきちんとソーシャルゲームをプレイしていて、しかも長続きしている。ビジネスモデルとしても十分に成立するものでした。

 一方、ゲームを開発する視点からすると、家庭用ゲームタイトルと作り方が違うので、自分たちには作れないのではないかという先入観がありました。確かに初期のソーシャルゲームはカジュアルなゲームが中心でした。

 しかしスマートフォンが普及してくると、それまでのソーシャルゲームもより洗練され、ゲームの内容も多様化してきます。カジュアルなゲームから、本格的なRPG的なゲームまで、ゲームの内容の幅が広がってきました。それを見て、ゲーム開発者たちは自分たちの領域なんだということが分かってきたのです。

――2011年は、ソーシャルやダウンロード販売など新しいビジネスモデルの広がりによって、市場は拡大したということでしょうか。

和田氏:そうですね。ベースとなる家庭用ゲーム機市場が継続・成立できて、その上にソーシャルゲームやスマートフォン、ダウンロード販売などのマーケットが上乗せできました。もうソーシャルゲームの存在について、異論を唱える人はいなくなりましたね。

3年ほど前から、欧米では「デジタル」という言い方で、ダウンロード型のコンテンツ流通について定義してきたと話す和田氏

――吹っ切れた感じは、日本のゲーム産業に限ったものですか? 海外ではすでに先を行っているのでしょうか?

和田氏:いずれかが進んでいて、遅れているということではありません。ソーシャルゲームに限定すれば、同じレベルになったのです。

 欧米の家庭用ゲーム機市場は、マルチプレイとか、追加のダウンロードコンテンツで収益化するというビジネスは標準的になっています。販売経路についても、パッケージの店頭販売ではなく、ダウンロード販売の割合が増えてきました。ゲーム本体のダウンロード、追加コンテンツのダウンロード、アイテム課金とか、モバイルやスマートフォンに関するコンテンツ提供などを総称して、「デジタル」と表現するようになってきました。フィジカルなパッケージの販売流通網に対して、ネットワークを通じて販売するコンテンツに対するものとして「デジタル」を定義しています。

 およそ3年ほど前から、「ゲームのデジタル化」ということを、アニュアルレポートで記載している欧米のゲーム会社が出てきました。最近では、決算説明会で「いかに我々は“デジタル化”が進んでいるか」というプレゼンテーションをするようになっています。

 一方、日本の場合、「デジタル」はiモードの登場以降、実はかなり進んでいました。だから、欧米のように「デジタル」か「フィジカル」か、という対比の関係ではなく、「デジタル」がゲームの1つの種類として存在してきました。日本の各社はデジタル化の進捗具合に濃淡はありますが、デジタル化が大事だと多くの会社が認識し始めて、2011年から対外的にアピールし始めたところです。

拡大するゲームビジネスの全体像を表す指標を創出する必要がある