2012年3月期予想の売上高を1300億円(前年比3.8%増)、営業利益を100億円(前年比36.5%増)と、業績を回復基調に乗せているスクウェア・エニックス。家庭用ゲーム機向けパッケージソフトだけではなく、Webやスマートフォン、SNS向けのコンテンツ収入が伸びたという。さらに2013年3月期には、『ドラゴンクエストX』や『ファイナルファンタジーXIV』などの新しいオンラインゲームが登場する見込みで、ゲームタイトルのバリエーションは広がっている。プラットフォームが多様化した日本のゲーム産業について、コンピュータエンターテインメント協会(CESA)会長として、またスクウェア・エニックス社長という立場から見て、その全体像について聞いた。
(聞き手/渡辺 一正=nikkeiBPnet編集、写真/稲垣 純也)

出典:日経トレンディネット,特集「キーパーソン激白! 進化するゲーム・ビジネス2012」, (記事は執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)

――まずは、CESA会長として伺います。日本のゲーム産業にとって2011年はどんな年だったと言えますか。

和田洋一氏(以下、和田氏):2011年は、日本のゲーム業界にとって、“迷い”が吹っ切れた年だと思います。主軸の家庭用ゲーム機市場に加え、スマートフォンやタブレットなどの新しいハードウエアやSNSのような新しいサービスなどが登場したことで、ユーザー層が一気に拡大しました。

 2010年ごろまでは、全世界レベルで新しい市場が誕生して、拡大し続けていることを、理屈では分かっているけれども、自分(ゲーム会社)がその新しいマーケットに入っていくのか、それとも新規参入者たちだけでマーケットを形成するのか――。そうした選択肢に対するアクションについて、各ゲーム会社で温度差がありました。

2011年、日本ゲーム業界にとって、ソーシャルゲームに対する迷いが吹っ切れたと話す和田洋一氏

 しかし、2011年になって、スマートフォンやソーシャルゲームといった分野で、成功した例がいくつも出てきました。日本のゲーム業界にとって、新しいマーケットの拡大に対応しなければならない、もしくは対応できるということを実感したのが2011年だったと思います。ソーシャルゲームをやるべきかどうかという“迷い”が吹っ切れたわけです。

 さらに、家庭用ゲーム機市場においても、変化がありました。家庭用ゲーム機タイトルは、基本的にパッケージソフトの売り切り販売というスタイルでした。しかし、パッケージソフトに追加できるコンテンツを後からダウンロードして楽しむ、というユーザーが増え、収益的に寄与できるビジネスモデルが確立されました。何年も前からその兆候はあったのですが、ダウンロード販売モデルの成功事例がたくさん出てきて、ビジネスの広がりを多くのゲーム会社が実感できたのではないでしょうか。

 ただ、今までビジネスしてきた家庭用ゲーム機をやめて、ソーシャルゲームだけをやるという話ではありません。これまでも申し上げてきましたが、あくまでもゲームのプラットフォームが多様化したということ。ですから、従来は、家庭用ゲーム機をメインにしてきたけれども、ソーシャルゲームはできるかな? と迷っていた企業が、どっちもやりましょうと切り替わったところが、これまでと違う1年だったと思います。

「デジタル」という流通の枠組みがビジネスを広げる