Cellで人物姿勢を画像認識3軸加速度センサへの参入も続々

 今回のCEATECでは,画像認識技術を利用したユーザー・インタフェースの実演や,携帯電話機およびゲーム機での採用によって注目が集まりつつある加速度センサなど,現在の家電で主流のボタンやスイッチだけでない,新たなユーザー・インタフェースの胎動を感じさせる展示が多く見られた。

身振り手振りをリアルタイム認識

 ユーザー・インタフェース関連で最も来場者の耳目を集めたのが,東芝が見せたマイクロプロセサ「Cell」の実演である。カメラで撮影した画像から人物の姿勢をリアルタイムに判別し,3次元グラフィックス(CG)で描画したキャラクターをその姿勢に合わせて動かす,いわゆる「モーション・キャプチャ」を実現した(図16)。一般に画像認識によるモーション・キャプチャは,人物の各関節やつま先などに特定の色のマーカーを取り付けることで認識しやすくするのが通常だが,今回は同社が手掛けてきた画像認識技術に加え,Cellによる並列処理を工夫し,マーカーが不要なシステムを実現した。

  今回のシステムでは,毎秒10フレームの認識が可能である。このために,次のような手法を用いる。まず,入力画像について,背景の色情報から人物領域のみを抽出した2値画像の「シルエット画像」を得る。このシルエット画像に最も近い姿勢を,約4万の姿勢を格納したデータベースから検索し,各関節の角度を推定する(図17)。会場では今回のシステムを用いて,簡単なアクション・ゲームを実演していたが,実際の人物とCGキャラクターの動きには約0.4秒程度の遅延があった。

  検索処理の高速化は,Cellに搭載した7個の信号処理プロセサ「SPE」での分散・並列化に加え,シルエット画像のマッチングについて「Integral Image」と呼ぶ高速化手法を用いた。画像の行ごとに,左にあるすべての画素の画素値とその画素自体の画素値を足し合わせた画像を用意し,データベースに格納された人物領域の端点の座標間で画素値の減算を行うことで,データベース中のシルエット画像との重なり具合を高速に算出する。これにより「演算量を数百分の1に減らせた」(同社の説明員)という。

姿勢検出センサへの参入相次ぐ

ユーザー・インタフェースを実現するセンサとしては,MEMS型3軸加速度センサやジャイロ・センサなど,機器の動きや姿勢を検出するセンサが数多く出品された。こうした部品は,ゲーム機や携帯電話機など出荷量の多い民生分野で使われ始めたことで急速なコスト低減が進んでおり,需要拡大が見込まれる。会場でも,伊仏合弁STMicroelectronics社(ST社)や北陸電気工業のように現在大きなシェアを獲得しているメーカーに追い付こうと,新規参入企業による自社の強みを生かした展示が多く見られた。

  代表的なのが,モジュール技術に強みを持つミツミ電機である(図18)。同社は従来,センサ素子を外部から調達することでセンサ・モジュールなどを生産していたが,今回,ピエゾ抵抗式のMEMS型3軸加速度センサを自社開発し展示した。「単体のセンサではなく当社の強みを生かせるモジュール部品の一部に組み込む形で製品化したい」(同社 開発本部の永渡実氏)。このほか,民生機器向けのジャイロ・センサを手掛けるエプソントヨコムは,小型の車載向け品を展示した。また「QMEMS」と呼ぶ水晶の微細加工技術を応用し,加速度センサの開発を進めていることを明らかにした。

  参入メーカーが増え競争が激しくなったことで,既存のセンサ・メーカーはより一層の特色を出す必要に迫られている(図19)。例えば,沖電気工業は,3軸加速度センサだけでなく,3軸地磁気センサや制御ICを1パッケージに収めた電子コンパスを開発した。目標価格は加速度センサの1.5倍とする。ロームやオムロンは,あえて機能を割り切ることで,傾き検出に向けた加速度センサより低価格ながら傾きを検出できるセンサに活路を求める。ロームのセンサは光素子によりセンサ内部の重りの位置を検出し,4方向の傾きを出力する。オムロンのセンサは磁気ホール素子により振り子の位置を検出し,垂直方向から左右に40度以上傾いたかどうかを出力する。

  こうしたセンサ部品の低価格化により,その利用範囲は広がりそうだ。日立製作所は遠隔地から人間の歩行状態を把握する機器を展示した。加速度センサ,ジャイロ・センサ,地磁気センサ,気圧センサを搭載する(図20)。