携帯電話機

 2005年度中にサービス開始が予定される携帯機器向け地上デジタル・テレビ放送,いわゆる1セグメント放送。今回のCEATECでは対応端末や部品がずらりと顔を並べた。注目のチューナの消費電力については,100mWに近づくモジュールが登場した。このほか,3軸加速度センサや,指紋認証機能付き液晶パネル,顔認識用LSIなど将来の需要を見越した展示も相次いだ。

 携帯電話機への搭載を狙うこうしたチューナや加速度センサの厚さについては,1.4mmではなく1mmを目指す動きが具体化してきた。「0201部品」や放送と通信の共用アンテナが登場するなど,小型化/省スペース化競争はますます激しくなっている。

放送/通信アンテナを一体化

 1セグメント放送対応携帯電話機を展示した三洋電機,ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ,日立製作所,松下電器産業の4社のうち,一歩先を行くのが三洋電機だ(図20)。昨年も動作する試作機を展示した同社は今回,アンテナの開発に注力した。携帯電話機の通話に使う800MHz帯のアンテナと1セグメント放送受信用のアンテナを一体化した。同社はダイバーシチ受信用に2系統の受信信号を処理するチップセットを開発しており,昨年の展示品は1セグメント放送用のアンテナを携帯電話機用のアンテナとは別個に搭載していた。今回の放送/通信共用アンテナの長さは93mm。アンテナの根元部を巻き線状にして収納するボトム・ヘリカル・アンテナでアンテナ・メーカーと共同開発した。また,外部調達したH.264の復号化LSIを搭載し,地上デジタル放送対応端末として唯一,H.264を復号化したデモを実演した。同社は標準化の進捗に合わせてブラウザ・ソフトも自社開発しており,今後はチャネル切り替え時間の短縮に取り組むとする。

 松下電器産業はソフトウエア開発の効率化に期待を寄せる開発プラットフォーム「UniPhier」を利用して,据置型に向けたSDTVの復号化と携帯電話機に向けたQVGAの復号化の評価ボードを展示した。SDTV向けには,MPEG-2/MPEG-4/H.264に対応するなどアーキテクチャの柔軟性を見せたのに対し,携帯電話機向けにはデータ並列プロセサを省き,命令並列プロセサとハードウエア・エンジンのみを組み合わせて小型/低消費電力化を図った。ただし,今回のデモはMPEG-4である。QVGA,15フレーム/秒でデータ符号化速度が192kビット/秒の映像を復号化した。消費電力は公表しなかったが,他社のLSIに負けないレベルにしたいと説明した。

(a)三洋電機の試作機
(b)ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズの試作機
(c)日立製作所の試作機
(d)松下電器産業の試作機
図20 1セグメント放送対応端末が続々登場
三洋電機が展示した地上デジタル放送を受信できる携帯電話機(a)。同社は2003年8月にも地上デジタル放送対応携帯電話機を公開しており,今回の展示品は第2世代となる。ブース内に試験放送用アンテナを設置し,実際に試験波を受信しQVGAの画像を15フレーム/秒で再生するデモンストレーションを見せた。再生したのはH.264/MPEG-4 AVCの動画データである。テレビの視聴時間は120分。2本のアンテナを使うダイバーシチ受信方式を採り,チューナはダイレクト・コンバージョン方式である。データ放送用のブラウザ・ソフトも自前で開発を進めている。ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズや日立製作所,松下電器産業は映像符号化方式にMPEG-4を使った試作機を展示した。ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズはISDB-T方式のRF信号を直接,有線で試作機に入力した(b)。アンテナはまだ搭載していない。日立製作所はブース内に0.001Wの試験電波を発信し,試作端末で受信した(c)。現時点でアンテナやチューナ,OFDM復調回路などの詳細は明らかにしていない。松下産業はminiSDカードに保存したトランスポート・ストリーム(TS)信号を評価ボードで復号化したMPEG-4の画像を試作端末で表示した(d)。

 数多くの試作機が並ぶ中,東芝やミツミ電機,村田製作所などチューナ・モジュールを展示するメーカーも相次いだ(図21)。現時点で最も消費電力が小さいチューナ・モジュールを展示したのが村田製作所である。「2005年度中に始まるとされている1セグメント放送に対応する携帯電話機に搭載されるチューナ・モジュールの消費電力は100mW程度にまで下げるのが目標」(同社の説明員)。モジュールの厚みは1.6mm。競合他社が1.4mm品を開発目標にしているのに対して,同社は1mm品を目指すとした。

(a)東芝が展示したチューナ・モジュール
(b)ミツミ電機が展示したチューナ・モジュール
(c)村田製作所が展示したチューナ・モジュール
図21 128mWの1セグ放送用チューナ・モジュールが登場,高さは1.6mm
東芝が展示したチューナ・モジュールはチューナICの外形寸法が5.3×5.3×0.6mm3,OFDM復調ICが7×7×0.5mm3。消費電力は2つのICを合わせて200mW程度である。ミツミ電機が展示したチューナ・モジュールは消費電力が180mW。外形寸法は20×15×1.8mm3である。使用するチューナICとOFDM復調ICはいずれも他社から購入している。年内には150mWのチューナ・モジュールを開発する予定。携帯電話機向けのチューナ・モジュールとしては,今回最も小型,低消費電力だったのが村田製作所のモジュールである(c)。外形寸法は12×10.5×1.6mm3で,消費電力は128mW。

実装面積よりも厚さを優先


図22 薄さを競う3軸加速度センサ
沖電気工業は外形寸法が6.3×6×1mm3と業界最薄の3軸加速度センサをパネル展示した。3軸センサと制御用IC,A-D変換ICを内蔵する。写真は5×5×1.4mm3品である。日立金属は実装面積の小さい3軸加速度センサを展示した。外形寸法は4.8×4.8×1.3mm3。日立金属は2004年11月,沖電気工業は2005年1月にそれぞれサンプル出荷を開始する予定。

 部品関連で展示が多かったのが3軸加速度センサである。沖電気工業やオムロン,日立金属,北陸電気工業などが展示した。3軸加速度センサに注目が集まっているのはカメラ付き携帯電話機の手ぶれ補正などでの用途を狙ってのことである。それ以外にも「通常は端末を省電力状態にしておき,ユーザーが端末を持ち上げたことを検知して復帰させるといった使い方が実現できる」(沖電気工業の説明員)など,アイデア次第で多目的に使えると各社は強調する。

 現在,携帯電話機メーカーからは厚さを1.4mm以下に抑えるように要求が来ているという。現時点でこの要求を満たしているのは沖電気工業と日立金属の2社だ(図22)。沖電気工業が開発中の3軸加速度センサは厚さが業界最薄となる1mm品で,日立金属は実装面積が業界最小の4.8mm角品である。沖電気工業は1mm品を開発するに当たり,同社従来品の1.4mmに比べて実装面積を5mm×5mmから6.3mm×6mmへ増やす考えだ。その理由として,携帯電話機メーカーから「実装面積は多少増えてもいいから,とにかく薄くしてほしい」と要求があったためと説明した。この要求を満たすために同社は従来,縦積みしていたセンサICと制御ICを横積みすることで対応する。その分だけ実装面積が増えてしまうわけだ。

 このほか,今後の携帯電話機の新しい使い方を見越しての展示も多かった(図23)。いずれも部品メーカーの提案ベースのものである。例えば,カシオ計算機は携帯電話機のサブ・ディスプレイ上に張ることができる,透明な指紋認証パネルを展示した。「表示系デバイスと入力系デバイスを連動させることで,タッチ・パネルと同様にユーザーが直感的に理解しやすいインタフェースを実現できる」(同社の説明員)と期待を込める。このほか,可視光通信でも携帯電話機を送受信端末に想定したデモンストレーションが行われた。

(a)日本電産コパル電子の小型ファン
(b)東芝とミツミ電機が共同開発した自動焦点機能付き光学2.5倍ズームのカメラ・モジュール
(c)カシオ計算機の指紋センサ機能付き液晶パネル
(d)オムロンの顔認識用LSI
図23 将来の携帯電話機を支える電子部品
日本電産コパル電子が展示した,外形寸法が16×16×2.9mm3の小型ファン(a)。風量を0.012m3/l,風圧を4.7Pa,騒音を3dB(A)にするのが目標とする。騒音以外はほぼ,目標値を達成しているという。東芝とミツミ電機は光学2.5倍ズームで自動焦点機能付きのカメラ・モジュールを展示した(b)。展示品の外形寸法は16×16×17mm3と大きいが,今後携帯電話機メーカーと話し合いながら小型化を図る予定。焦点が合うまでの時間は1秒~2秒程度。カシオ計算機は指紋センサ機能付き液晶パネルを展示した(c)。開口率は70%~80%と,従来の30%~40%から改善した。1画素の大きさは60μm角。携帯電話機の背面ディスプレイでの使用を想定する。オムロンは顔認識用LSIを展示した(d)。入力画像がQVGAの場合,1画面の中で最大35個の顔を検出できる。検出に要する時間は約50ms。検出率は90%である。カメラ撮影時での利用を想定する。カメラ撮影時に人物を認識し,常にそこに焦点を合わせるようにすれば,仮に撮影画面の中心に人物がいなくても人物に焦点が合った写真が撮れる。

早くも0201部品が登場

 「聞かなかったことにしよう」(実装装置メーカーの説明員)--CEATECのすぐ隣で開催された「2004実装プロセステクノロジー展」の会場において,CEATECで外形寸法が0.2mm×0.1mmの「0201部品」が登場したことを伝えると,そんな反応が返ってきた。

 0201サイズのコンデンサを出展したのはローム(図5)。ようやく一部のモジュールに0402部品の実装が始まったばかりの段階で,次の目標が提示された形だ。携帯電話機の大きさを変えずにより多くの機能を詰め込むには,部品を小型化してモジュールを小さくするしかない。いずれ0201部品が必要になるのであれば,先に手を打っておくべきと同社は判断したという。まだ実用化時期などのメドは立てていないとしたが,「0402部品の場合は参考出展から2年~3年で量産に入っている」(同社説明員)といい,0201部品も同様の過程を経ると見込む。まず,使用温度範囲が-55℃~+125℃で容量の変化が60ppm/℃以内の,いわゆるCH特性品で10pF以下のコンデンサを開発する予定。

 0201部品を量産するには,加工精度が重要になる。マウンタで実装する際,部品の加工精度が悪いとノズルで吸い付けるときにエアーの抜けが生じてしまうからだ。精度よく加工するにはコンデンサの場合,積層シートの切断がポイントになるという。ロームは「従来からSiウエハーのダイシング技術を持っている」と自信を見せていた。

(a)ルーペをのぞき込んで0201部品を見る来場者
(b)ロームが展示した0201部品
図24 とうとう0201部品が登場
外形寸法が0.2mm×0.1mmのいわゆる「0201部品」をロームが展示し,多くの来場者が足を止めていた(a)。展示したのは積層セラミック・コンデンサで厚さは0.1mm(b)。今回の展示は形状サンプルの段階で,形状は決まっているものの静電容量などの特性は決まっていないとする。

可視光でケータイに情報や映像 2005年9月の標準化目指す

 「光のある場所に情報がある」--。「可視光通信コンソーシアム(VLCC:Visual Light Communications Consortium)」に参加する各メーカーは,携帯電話機に接続する受信機を開発し,可視光通信可視光通信の「分かりやすさ」を実演してみせた(図B-1)。

 NEC,松下電工,および慶応義塾大学などは,位置情報や店舗情報,ビデオ映像などを携帯電話機で受けるシステムを展示した。照明器具に位置情報を登録できれば,GPSや携帯電話の電波が届かない屋内や地下でも正確な位置が分かる。位置情報などの送受信用には,「0」の信号が連続しても照明の光量が落ちないようにパルス位置に情報を多重する変調方式,4値PPM(pulse position modulation)を採用し,10kビット/秒の伝送速度を実現した。ビデオ映像の送受信では,SDTVの映像信号をアナログ変調で送受信してみせた。

 一方,NTTは,携帯電話機の液晶ディスプレイの色の変化に情報を載せて大型スクリーンと通信するデモを披露した。ただし,15フレーム/秒の液晶ディスプレイを使った場合の伝送速度は30ビット/秒程度であり,ID情報を送信するといった用途になる。

 可視光通信は,他の無線通信では大きなハードルとなる周波数割り当ての問題がない。現状では,応用ごとに各社各様の仕様を利用している。VLCCは,物理層など仕様の集約を図り,2005年9月に携帯端末向けの標準仕様を取りまとめる計画である。

(a)アジレント・テクノロジーの照明
(b)NECの受光用アダプタ
(c)携帯電話機に取り付けたNECの可視光通信用受光部
(d)慶応義塾大学のアナログ・ビデオ伝送用受光部
図B-1 可視光通信用に試作された照明や端末
アジレント・テクノロジーは同社のドライバ回路と米Lumileds Lighting,LLCのLEDを組み合わせた照明を開発し,ソニーと共同で音楽データの送信デモを実現した(a)。NECは,携帯電話機に装着する受光機を開発し,照明を開発した松下電工と位置情報の決定や時刻表情報などのデモを披露した(b),(c)。アダプタの寸法は50×40×20mm3で,+3Vで動作し,消費電流は10mA以下である。慶応義塾大学は,NTSC方式の動画データをアナログ伝送する可視光通信の送受信システムを開発し,アナログ伝送にもLEDなどが対応できることを示した。ただし,周囲の照明の影響を受けやすいという課題がある(d)。