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 家庭に猛烈な勢いで普及しつつあるDVDレコーダや,録画できるパソコン。これらの中に今,それぞれ個別にどんどんコンテンツが蓄積され始めている。

 こうなると次は,複数の機器に入っているコンテンツを家庭内ネットワーク越しに総覧し,別の部屋にあるテレビ受像機などで自由に視聴したくなるのは自然だろう。ところが,現実は厳しい。複数の機器メーカーが対応する,家庭内ネットワークの接続仕様がないのだ。こうした接続仕様の業界標準を打ち立てようとの試みは過去に幾つもあったが,なかなか実現していない。

 そんな中,今回のCEATECで注目を集めた実演があった。「Digital Living Network Alliance(DLNA)」という団体の展示がそれである。24社が共同で,機器の相互接続などの成果を見せた。

 DLNA仕様では,コンテンツの保存や配信を担う「Digital Media Server」(以下,サーバと呼ぶ)と,表示や再生を行う「Digital Media Player」(以下,クライアントと呼ぶ)を,Ethernetケーブルや無線LANなどでつなぐ。そしてUPnPなどで相互に認識し,決められた手順でコンテンツを転送する。今回のCEATECでは,サーバとクライアントの両方がずらりと並んだ(表1,表2)。その中にはDLNAが発行した設計ガイドライン「Home Networked Device Interoperability Guidelines version 1.0」に準拠したとうたう製品もあった。ソニーが2004年11月に発売予定のパソコン「VAIO type X」などである。

表1 DLNAのブースで実演していたサーバの例

表2 DLNAのブースで実演していたクライアントの例

相互接続性の確立が焦眉の急

 製品への実装が具体化し始めたDLNA仕様だが,直ちに対応製品が続出するという状況ではない。相互接続性の確立がまだ途上であり,著作権保護技術の取り入れも今後のことだからだ。

 相互接続性の確立に関してDLNAは,各メーカーが参加する相互接続試験を2004年1月以降,3回~4回実施している。しかし,相互接続性を保証するロゴはまだ発行されていない。DLNA仕様が対象とする機器は多様である上,仕様の細部について解釈が異なる問題などを各メーカー間で詰めるのに苦労している。今回の展示の準備でも,この問題に直面したようだ。ある説明員によると,設計ガイドラインに準拠した端末を用意したものの,相互接続するために「現場で通信ミドルウエアを緊急修正する必要があった」という。

 DLNAはこの課題を早期に解消し,「2005年半ばにはロゴを発行する計画」(DLNAのChairmanであるScott Smyers氏)だ。ロゴ発行前にも,先述のVAIO type Xのように設計ガイドラインに準拠したことをうたう製品は出荷されるが,その場合は「ソフトウエアを更新してロゴ取得製品との相互接続性を確保する予定」(複数のメーカー)である。

 著作権保護技術については,設計ガイドラインの次期版(Version 2.0)にDRM(digital rights management)に関する規定が盛り込まれる予定だ。これを取り入れないと,例えばコピー・ワンスの制限がかかった地上デジタル・テレビ放送の番組などを,DLNA仕様の家庭内ネットワークで扱えない。今回の展示でも,やりとりしていたのは著作権保護技術が不要なコンテンツだった。

 DLNAの関係者によると,DTCP-IP技術を基にしたDRMを規定することで合意したものの,詳細仕様が固まるのは2005年末にずれ込む。「参加社数が182に膨れ上がり,意見の取りまとめに時間がかかる」(ある機器メーカー)。

ユーザー・インタフェースで競う

 DLNA仕様が普及すれば「いかにしてつなぐか」という難題はひとまず解消する。こうなると,機器メーカーの競いどころはさらにその先になる。例えば,家庭内に散在する大量かつ多様なコンテンツを,いかに(1)簡単な操作(ユーザー・インタフェース)で,(2)高品質に再生できるか,に視点が移る。

 各社はこうした点に目を付け始めたものの,今回のCEATECの展示品では試作に苦心した跡がうかがえた。例えば(1)では,クライアントとしてのテレビ受像機に,どのようなユーザー・インタフェースを組み込むかが大きな課題になりそうだ。

 テレビ受像機は,基本的にリモコンですべて操作しなければならない(図17)。キーボードやマウスのような自由度の高い操作が行えるパソコンとは違う。居間でゆったりとくつろいだ状態でも使える必要もあり「極力シンプルなユーザー・インタフェースでなければ受け入れられない」(松下電器産業の説明員)。

図17 テレビでネットワーク上のコンテンツを視聴する
東芝は,テレビ受像機をDLNAのクライアントにして,ネットワーク上のコンテンツを再生する実演を見せた。ユーザー・インタフェースは同社が2004年11月に発売予定の液晶テレビ「32LZ150」のものを転用した。コンテンツを再生する主な手順は次の通り。まずテレビ受像機(クライアント)で利用可能なサーバのリストを表示する。この実演では他社製のパソコンやDVDレコーダもしっかりと表示されていた。ここで例えば(1)のようにパソコンを選択すると,次にコンテンツの種類を選ぶ画面が現れる((2))。コンテンツの種類はファイルの拡張子で自動的に分類している。ここでさらにVideoを選ぶと,コンテンツのリストが現れる((3))。

 しかし,今回の展示品の多くは,利用できるサーバやコンテンツをリスト表示し,その1つを選ぶとまた画面が切り替わって次のリストが表示され,選択を促すといったもので,まだ分かりやすさの作り込みには至っていなかった。

 こうした課題に対して数社のテレビ・メーカーは,DVDレコーダで開発したユーザー・インタフェースをテレビ受像機に移植することで解決を目指すようだ。実際,ソニーはこうした取り組みを他社に先駆けて展示し,DLNA推進メーカーの担当者や来場者の注目を集めていた。DVDレコーダ「PSX」に続いてテレビ受像機に採用し始めたユーザー・インタフェース「クロスメディアバー」をDLNA仕様向けに改造し,展示していたのだ。

 ソニーは今回,テレビ放送やビデオといったメディアを選択する横1列のアイコンに,DLNA仕様のサーバから受け取るコンテンツの再生を始めるアイコンを加えた。ユーザーがそのアイコンを選ぶと,利用可能なサーバが縦1列にサッと現れる。次にサーバを選べば,今度は同サーバ内のコンテンツが縦に一覧表示される。「コンテンツ選択のステップを分かりやすく示せる」と,競争相手の技術者も評価していた。

画像処理もDVD録画機と共用

 差異化点の(2)である映像などの再生品質については,主にクライアントで,これまでとは異質の工夫が必要になってくる。例えばコンテンツの入り口が主にテレビ放送に限られていたテレビ受像機は,内部でそれを前提とした高画質化処理を施してきた。しかし,今後は家庭内ネットワークを介して想定外の仕様の映像データが飛び込んでくる。そうなると,自慢の高画質化処理が逆効果になってしまう場合があるというのである。

 インターネットでパソコンにダウンロードした,符号化データ速度の低いMPEG-2の映像データを,デジタル・テレビ受像機に直接,転送して表示するケースを考えてみる。この映像データは,現在のデジタル・テレビ受像機が備えているMPEG-2復号化LSIに,じかに飛び込む。そして復号化された後,高画質化処理回路に入る。

 ところが,現在のデジタル・テレビ受像機向けの高画質化処理LSIは「符号化データ速度が数Mビット/秒を下回ってブロック歪みなどが非常に多い映像の補正を想定していないものが多い」(ある機器メーカーの説明員)。そうなると,画像処理によって逆に「ブロック・ノイズをよりシャープに際立たせるような効果を引き起こしてしまう」(同)。

 こうした課題を解決する方法として有望視されているのは,ユーザー・インタフェースの場合と同じく「DVDレコーダ向けの画像処理技術をテレビ受像機に転用すること」(ある機器メーカーの説明員)である。DVDレコーダ向けの高画質化処理は,あらかじめ低い符号化データ速度にも対応できるように作ってあるからだ。

 このように,AV機器を結ぶ家庭内ネットワークの普及が,複数の機器間におけるユーザー・インタフェースや高画質化処理の共通化を進めていく。最近,デジタル・テレビ受像機とDVDレコーダなどで共通のLSIを使おうとの動きが活発になっているが,家庭内ネットワークという違った側面からもそれが加速されるという可能性が見えてきている。

家電の高速通信に候補続々


図18 MIMOでHDTV映像を伝送
太陽誘電が見せた,MIMO(multiple input multiple output)技術と無線LANのIEEE802.11aを組み合わせたHDTV映像の伝送デモンストレーション。同社と提携している米Airgo Networks,Inc.の無線機器を利用し,10mを超える距離のデータ伝送を行った。このときの最大データ伝送速度は約45Mビット/秒。10Mビット/秒なら350mまで届くという。

 DLNA仕様の足腰となる,家庭内の物理的なネットワーク技術についても,多くの実演があった。焦点は「HDTV画質の複数の映像ストリームを伝送できること」。2004年1月に米国で開催された「2004 International CES」に引き続いてのテーマである。

 これを実現する高速無線伝送技術の中でも,今回のCEATECで展示が続出したのは,UWB関連である。さらに村田製作所が60GHz帯の無線伝送技術を披露したり,太陽誘電がMIMO(multiple input multiple output)を利用した高速無線LANで映像データの伝送実演を見せたりするなど,家庭における高速通信技術の選択肢はどんどん広がっている(図18)。

UWB用アンテナで世界最小品

 迫る実用化の日を前に,アンテナや帯域通過フィルタといった部品の熾烈しれつな小型化競争が起きているのがUWBの分野である。「2005年のクリスマス商戦では,米国でUWBを用いた製品の発売ラッシュが起きる」(NECエレクトロニクス)との見方で各メーカーが一致しているからだ。これに間に合うよう,各メーカーはCEATECにすぐにも製品化できる水準の試作品を一斉に展示した。

 アンテナ素子では,数社が実装面積を10mm角以下に抑えた試作品を出展した(表3)。中でもTDKは外形寸法が7mm×4mm×1mmと「世界で最も小さい」とうたうものを開発した。居間の薄型テレビとUWBで通信する携帯機器などへの搭載を想定する。「携帯機器メーカーは小さければ小さいほどよいという。セラミックスの組成や放射素子の構造,表面実装技術などの工夫でこれを達成した。ただし特別な材料を選んだわけではないので製造コストはほとんど上がらない」(同社の説明員)。

 帯域通過フィルタでも,太陽誘電が外形寸法を3.2mm×1.6mm×1.15mmと大幅に小型化したものを出展した。1年前の時点では,50mm×20mm×1mmが最小だった。

表3 今回出展のあったUWBアンテナ素子の例

モジュールも小型化するUWB

 UWBでは,アンテナやRF回路,LSIなどを一体にしたモジュールの小型化も進んでいる。例えば,TDKはUWB向けとしては世界初となるRF回路用のLTCC(低温焼成セラミックス)基板を出展した(図19)。既にUWBのLSIなどを開発している米General Atomics社にサンプル出荷中で,同社と共同でUWBのモジュールも試作済みという。その実装面積は約15mm角。2005年の早い時期には,RF回路に加えてMAC回路も追加したモジュールをLTCC基板で実現する計画である。

 実際に動くUWBモジュールの出展もあった。NECエレクトロニクスは回路の大半を個別部品で構成したボードを見せた。MBOA(MultiBand OFDM Alliance)が2004年9月に公開した物理層仕様に準拠しており,同時期に米Intel Corp.が開催した「Intel Developer Forum Fall 2004」でも相互接続を実演したボードだ。「今は外形寸法が大きいが,2005年6月にはほとんどの部品を1チップに集積した製品を出荷する」(NECエレクトロニクス)という。

 このほか,太陽誘電が他社に先駆けてUWBを実装した「ExpressCard」を展示した(図19(b))。近い将来,パソコン内部のパラレル・インタフェースがPCI Expressに置き換わるのを見据えての対応だという。

(a)TDKのLTCCモジュール基板
(b)太陽誘電のUWB対応ExpressCard
図19 「世界初」のLTCCモジュール基板やExpressCardも
TDKが出展したUWB向けLTCC(低温焼成セラミックス)モジュール基板(a)。大きさは約15mm角で約10層の配線が可能。0603部品を表面実装することを想定している。(b)は太陽誘電が他社に先駆けて見せた,ExpressCardにUWBを搭載したモジュール。外形寸法は95mm×32mm×5mmである。同社の超小型アンテナ素子のほか,業界最小クラスの帯域通過フィルタやバランなどを実装してある。主用途としてはプリンターやLANスイッチのような機器との高速通信を想定しているという。

小型化競争から性能の競争へ

 今回はとにかく「小型化」が目立っていたUWB部品だが,開発現場の意識は,早くも次に移行している。今後は同じ大きさのまま性能を引き上げたり,実装する個々の機器に形状を合わせたりするといった多様化が進みそうだ。

 あるアンテナ素子メーカーの技術者は「これまでは小型化を最優先してきた。アンテナの性能指標の1つであるVSWR(電圧定在波比)や周波数帯域幅の広さについてはやや妥協せざるを得なかった」と実情を明かす。別メーカーの技術者も「小型化はもう十分なレベルに達した。今後は性能の高さで競う」と,風向きが変わることを匂におわせた。

 小型化とは異なる方向性を打ち出すメーカーも既に現れている。オムロンはCEATECに出展した中では唯一,誘電体材料にセラミックスでなく,熱可塑性樹脂を使ったアンテナ素子を出展した。「携帯電話機でも何でも,筐体の形に合わせて一体化するように成形でき,素子単体の大きさはさほど問題にならない」(同社)。性能面でも「展示品のVSWRは2以下。放射素子も筐体形状に合ったパターンを設計でき,性能低下の心配はない」(同社)とする。