これらの条文および規定を簡単にまとめると、以下のようになります。

(1)職務発明について特許権を取得した場合は、会社が職務発明を行った従業員に対して奨励及び報酬を与える必要があります。
(2)奨励及び報酬については、契約等があった場合にそれに従います。
(3)契約等がない場合は、奨励金は特許1件当たり3000人民元(約3万9000円)以上、実用新案又は意匠1件当たり1000人民元(約1万3000円)以上を支払わなければなりません。
(4)契約等がない場合は、特許または実用新案につきその実施によって得られた営業利益の2%以上、意匠につきその実施によって得られた営業利益の0.2%以上が報酬として算出されます。
(5)契約等がなく、かつ会社が他人に実施許諾をすることによりロイヤルティーを受け取った場合は、そのロイヤルティーの10%以上が報酬として算出されます。

 日中両国の規定を比較すると、中国は奨励のみならず報酬も従業者に与える必要があると明記されています。職務発明の対価算定については、日本は抽象的表現にとどめる一方、中国は具体的な算定法まで明確に規定されています。

 中国特許法で定められた奨励および報酬の算定金額は、中国の賃金レベルから考えるとかなり高額といえますが、ここから従業員の発明意欲やモチベーションを高めることによって技術革新を推進したい中国政府の思惑がうかがえます。

出向先とのトラブルを回避

 これまでの説明を基に、冒頭の事例をあらためて検討してみましょう。Aさんは中国関連会社に出向し、そこで食器洗浄機を開発する過程で発明に至りました。その食器洗浄機の発明は会社の業務範囲内にあるので、Aさんの発明は職務発明に該当します。

 Aさんは日本本社からの出向者であり、給与も日本本社から支払われています。しかし、出向期間中の勤務先は中国関連企業です。そして、日本本社と中国関連会社の間に出向者に関する職務発明の権利帰属の契約などがない場合、中国特許法上の規定に従って、Aさんの職務発明に係る権利は中国関連会社に帰属するものと解釈されます。さらに、Aさんが行った食器洗浄機の発明について特許権を取得したときには、その職務発明の対価として中国関連会社は奨励および報酬が与える必要があります。

 近年、中国拠点の商品開発機能を強化するため日本の技術者が現地関連会社に出向するケースが目立ちます。それに伴い、出向者が中国で職務発明を行う機会も増えています。技術者は職務発明に関する日本と中国の違いをよく理解し、知財部と相談しながら出向先とのトラブルを回避する必要があるでしょう。