民間放送局(民放)による、放送と通信を融合させた新しい取り組みが各所で始まっている。狙いは、番組のリアルタイムでの視聴を再び活性化すること。ネットの力をどうビジネスに結び付けるのか。試行錯誤が続いている。(日経エレクトロニクス=内田 泰)

 テレビと携帯端末の連携を前提に、放送と通信を融合させた新しい視聴体験の創造を目指す取り組みも進められている。大阪の民放(朝日放送、関西テレビ、毎日放送、讀賣テレビ、テレビ大阪)5局と、TBSテレビ、電通など12社は2011年12月、「マルチスクリーン型放送研究会」の設立を発表した。

 テレビ局が番組と番組関連情報を同一の電波に載せて放送し、番組はテレビで、関連情報は携帯端末などで楽しめる。具体的には、地上デジタル放送の電波にIPパケットを重畳するIPDC(IPDataCast)技術の利用を想定する。端末側で受信したIPパケットを無線LANを経由してタブレット端末など「セカンド・スクリーン」に転送する(図1)。例えば、番組で紹介されたお店の情報などは、これまでは視聴者自らがネットで検索していたが、このサービスではそうした情報が自動的にスマートフォンなどに配信される。テレビCMの放映中は、CMを出稿している企業の情報をセカンド・スクリーンに表示する、などのアイデアもあるという。

図1 放送波にIPパケットを載せて関連情報表示
マルチスクリーン型放送研究会は、地上デジタル放送の電波にIPパケットを重畳するIPDC技術を使ったサービスの構築を目指す。(マルチスクリーン型放送研究会の資料)
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 このサービスでは、番組をHDDレコーダーに録画する際にIPパケットを番組データとともに保存する。「タイムシフト視聴」する際にも、番組やCMの関連情報をセカンド・スクリーンに表示できるようにする検討を進めているという。

 従来から番組に関連した情報をテレビ画面に表示するという提案は多々あった。ただ、「ネットの情報表示のために視聴中の番組表示が小さくなるようなサービスが受け入れられるかは疑問。やはり番組はテレビの大画面で見て、関連情報は手元の端末で見る方がいい」(毎日放送 経営戦略室 主事の濱口 伸氏)との考えが根底にある。

 番組に関連した情報を、出演者の台詞や周囲の音などを手がかりにして探し出すAutomatic Content Recognition(ACR)技術を提供している企業も既にある。しかし、濱口氏は放送局主導で通信連携サービスを開発する意義を、こう説明する。「放送局は番組を自ら制作しているので、その内容を放送前に知っているのが強み。またテレビ番組は“間(タイミング)”が重要であり、IPDCを使えばそれをコントロールできる」。

 今回提案するサービスを利用するには、IPDCに対応したブロードバンド・ルーターもしくはその機能を内蔵したテレビやHDDレコーダーが必要になる。それ以上にハードルが高いのが、実際に放送波にIPパケットを重畳して送出するには、ARIB(電波産業会)が規格化している地上デジタル放送の技術仕様を一部改訂する必要があること。同研究会では2013年秋ごろまでにサービスのたたき台を作り、「実用化のタイミングを、放送設備の更新がある2015年ごろに合わせたい」(同)としている。 (内田 泰)