今や携帯端末は“テレビ”に

 実際、大手テレビ・メーカーは、携帯端末を映像サービスの視聴機器として位置付け、技術開発に注力する姿勢を強く打ち出している。

 ソニーは2012年1月をメドに、スウェーデンのEricsson社との折半出資で設立した携帯電話機メーカーである英Sony Ericsson Mobile Communications社を完全子会社化する。10億5000万ユーロ(1ユーロ=104円換算で1092億円)の巨費を投じて目指すのは、携帯端末と薄型テレビの連携強化である。「ソニーの中で、スマートフォンの戦略的な位置付けが著しく高まっている。自社のネットワーク・サービスを利用する際のユーザー・インタフェース(UI)を薄型テレビと統合していく」(同社 代表執行役副社長の平井一夫氏)。

 2011年8月にタブレット端末分野に参入した米テレビ・メーカー大手のVIZIO社でCEOを務めるWilliam Wang氏は、ここにきて消費者にとってのテレビという機器の定義自体が大きく変わっていると指摘する。「タブレット端末は、今や“スマート”な携帯型テ レビだ。画面の大小にかかわらず、ユーザーに映像コンテンツを届ける機器は、すべてテレビだと考えている」(同氏)。今後、大画面テレビはタブレット端末 やスマートフォンと連携する、いわゆる「マルチスクリーン」のシステムの一翼として、新たな視聴体験をつくり出していく(図3)。

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図3 マルチスクリーンが主戦場に
民放キー局5社と電通が2012年度に共同で始めるVODサービスでは薄型テレビに加え、携帯端末にも配信する(a)。東芝は、放送中のテレビ番組をHDDレコーダー経由で携帯端末に転送するアプリ「RZライブ」を開発した(b)。NHK放送技術研究所は、携帯端末と薄型テレビの連携を視野に入れた、インターネットと放送の融合技術「Hybridcast」の開発を進めている(c)。

 テレビ・メーカーが携帯端末分野の強化に舵を切る背景には、インターネットを使った動画配信の勢いが増していることがある。

 特に米国でその動きは顕著だ。米Amazon.com社や米Hulu社、米Netflix社など、テレビ番組や映画の「プレミアム・コンテンツ」を配信 するVODサービスの利用者が、この2年ほどで急拡大している。自社で自由に利用できる独自コンテンツを増やすことを狙って、動画配信サービス各社が映像 コンテンツの脚本や、動画配信の専用コンテンツを制作する企業などに出資する取り組みも活発だ(表1)。

価格下落だけが原因ではない

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William Wang氏
米VIZIO社 CEO
(写真:吉田 明弘)

 2011年はテレビ・メーカーにとって、かなりタフな1年だった。景気悪化による消費の低迷で、テレビ市場が低調だったからだ。以前ほどの水準ではないが、それでもVIZIO社は黒字を達成できそうだ。

 薄型テレビの価格は2012年以降も、まだ下がるだろう。だが、多くのテレビ・メーカーが赤字の理由を価格下落に求めるのはおかしい。テレビの販売台数 が2000万台で10億米ドル規模の赤字だとすれば、1台当たり50米ドルの損失になる。他社の内実は分からないが、それだけの損失が出る理由は価格下落 だけではないはずだ。

 最近話題の「スマートテレビ」が普及しても、価格の底上げ効果はあまりないだろう。もし、普通の薄型テレビより500米ドルも高価だったら、消費者はパソコンを選ぶはずだ。もちろん、スマートテレビ分野はVIZIO社も強力に推進している。我々のスマートテレビの購入者は、8割以上がインターネットに接 続しており、どのメーカーよりも接続率が高い。

 2012年初めには、Google TV対応機種も投入する。ソニーのGoogle TV対応機は使い勝手が良くないし、価格も高い。市場トレンドに逆行している。詳しくは言えないが、こうした課題を解決したものになるだろう。(談)