ホンダが2007年10月26日に発売した新型「フィット」が快走している。同社発表によると,同年11月8日までに約2万台を受注,2週間で月間販売計画数1万2000台の1.7倍に達した。
2代目に当たる今回のフィットは初代とは異なり,最初からグローバルカーとして開発されたものだ。どこの海外工場で,いつから量産を始めるかは未公表だが,1年以内に海外生産を立ち上げるとしている。
鈴鹿の量産に海外から技術者
ちなみに2005年発売の「シビック」は,日本での量産後9カ月で世界での量産立ち上げを終えた。新型「アコード」(北米仕様)ではこれを6カ月に短縮する。まだ世界「同時」立ち上げではないが,限りなく同時に近づける努力が続いている。フィットが何カ月かかるか注目だ。
フィットの開発責任者である本田技術研究所(栃木県芳賀町)四輪開発センター企画室LPL主任研究員の人見康平氏は,フィットの設計では工場での造りやすさを重視したと話す。「多用している高張力鋼板は,引っ張り強さをある程度抑えて加工しやすさに配慮した。海外工場での量産立ち上がりをスムーズにするためだ」(同氏)。
フィットの生産を担当するホンダの鈴鹿製作所では海外工場の技術者に来てもらって,一緒になって量産準備を進めた。鈴鹿製作所で量産の準備が本格化したのは,量産開始の4.5カ月前の2007年初夏。このキックオフの段階から,海外工場の新機種担当者が鈴鹿製作所での量産準備作業に加わった。フィットの場合,約100人の技術者が鈴鹿製作所を訪問。自らの職場である海外工場での量産準備があるので来日期間は2週間から1カ月とそれほど長くはないが,その間,鈴鹿製作所での量産準備に直接参加した。
鈴鹿製作所の中には,機密保持体制を強化した試組み場と呼ばれるスペースがある。この試組み場が量産準備の主な舞台だ。鈴鹿製作所の四輪新機種グループは,開発部門や四輪新機種センター*と協力しながら,ここにこもって量産準備を進める。新機種グループは,「溶接」「組み立て」「塗装」「エンジン」「合成樹脂」といった分野ごとに編成され,海外からの技術者は自分の専門に合ったグループに加わる。
* 四輪新機種センター 新たに量産する車種の仕様などを横断的に調整する機能を持つ。量産技術の開発なども行う。研究開発部門と工場の間に立ち,連携を強化する役割も果たす。
そして,こんな具合に量産条件を詰めていく。例えば,テールランプとボディの合わせ(図1)。完全なフラットが理想だが,誤差は必ずあるので段差が生じる。しかし,段差がある場合でもボディ側が若干高いようにする必要がある。テールランプ側が高いと走行時に風の流れが乱れ,風切り音が大きくなるからだ。所定の形状に収めるにはどんな公差を設定し,どう組み付ければよいか。これを,実際の部品を使って確認していく。このほか,ボディとドアのすき間の調整や計画工数への収束などを,車体の組み立てと分解を繰り返しながら最適化する。
海外工場の技術者が量産準備のプロセスに参加することで,日本と海外工場の量産準備を技術者レベルではほぼ同時並行で進められる。
「自動車づくりを言葉だけで説明することはできない。“現物”を前にして,簡略化した図面を描きながら議論する。これが重要。こうした経験を持ち帰ることで,海外工場の量産準備がスムーズになる」と,ホンダ鈴鹿製作所事業管理部生産設備SS・PESC生産技幹の島田和博氏は説明する。